天才錬金術師は成人までに一生暮らせるお金を得たので王国の辺境でのんびりスローライフを過ごします
音緒
第1話
「ふぅー、これで荷物の運び出しはお終いかな。収納の魔法があるとはいえ、重いものを運ぶのは苦労するな」
俺、クレナ・メギストスは錬金術師だった。五つの時に錬金術師の才を見つけ、魔法学校で錬金術師を専攻した俺は、王国の国家錬金術師として名を馳せた。
そして成人、十八を迎えた今、もう生きていくには十分過ぎるほどの富を得たため、俺は王国の辺境に家を買い、残りの人生ほのぼのと生きることに決めた。
「よし、荷運び完了! あ、店の看板とかも作らないとなー」
十分すぎるお金は稼いだとはいえ、何もせずに余生を過ごすのは少し暇だ。そのため俺は錬金術師として新しい店を開店することにした。ちょうど街から少し離れた丘なので人と親密に関わることなく、のんびり営業できそうだ。
「まあ看板なんて後で錬金術でパパッと作ればいいか」
俺は店の看板を後回しにし、疲れたので2階にある寝室の出したばっかのベッドにダイブする。流石俺が作ったベッド、もうこのまま動きたくなくなってしまう。
そういえば、前に王城の客間にあった俺のベッドにたまたま横になった隣国の王が俺のベッドのためだけに戦争を仕掛けてきたことがあった。あの時はかなり焦った。まあでもその時隣国にベッドを売り捌いたおかげでかなりお金が貯まったことも事実なのだ。
「あー今日は疲れたしこのまま寝よ……」
俺は自分のベッドから離れられなくなり、そのまま深い闇に意識を落としていった。
◆◆
「うわ、変な時間に寝たせいで変な時間に起きちゃった」
流石俺のベッド寝起きがとてもスッキリしている。
しかし俺のベッドだからこそこんな日もまだまだ昇りそうもない朝方に起きてしまった。
まあ起きてしまったものは仕方がない。俺は適当にコーヒーを入れ、窓際の小さなテーブルに置く。
「ほぉ……」
暖かいコーヒーを一口飲んで小さくため息をこぼす。苦い、しかしそれがまたいい。
王都はこの時間でも市場が盛り上がっていたが、ここは霧がかかり、灯りもなくとても静かだ。
「そうだ、今のうちに看板でも作っちゃうか」
暇な時に面倒ごとはするものだ。俺は外に出ると自分の手に意識を集中させる。
黒文字に黄色の枠線、そして適当に星の絵でも載せとくか、俺は頭に思い浮かべた明確なイメージを忘れないようにそれだけを意識する。
「ほっ、よし、できた。これはなかなかの出来ではないだろうか」
俺が五つの時に見つけた才能。それは錬金術の常識を覆すようなものだった。
五つの時、不意に剣を学びたいと思った。多分その時俺は勇者伝説にハマっていたからだろう。ものすごく勇者の剣に憧れた。憧れて、振り回している自分、自分なりの勇者の剣。それらをイメージし続けた。
するとなんてことだろう。何もない空間に紫色の光が収縮し、そこから俺が想像して憧れた勇者の剣が生まれたのだ。俺は小さな貴族の生まれだったのだが、屋敷は大騒ぎ。すぐに俺を魔法学校へと入学させた。
そこで俺は自分の異常性に気がついた。錬金術を専攻するものは皆、土を金に変えたり、回復のポーションを毒消しのポーションへと変化させていた。しかし俺は違った。無から金を生み出し、無からエリクサーを作り出した。俺は自分の魔力を錬金術で使用していたのだ。そのことに気がついた頃にはもう世界最高の錬金術師である証、メギストスという姓を授かっていた。
「うんうん、完璧」
まあしかし辺境まで来てしまったらもうメギストスの姓も役には立たない。信頼できるのは己の実力だけだ。
俺は家の外に出て看板をつけ終えると、腰に手を当て自分の作品に笑みをこぼす。
錬金術は俺に取ったら芸術だ。それも俺の想像を直接生み出すことができる。
俺はそんな自分の才能を誇りに思っていた。
「お、そろそろ日が昇るな。想像にかなりの時間かけたからな起きてからの時間があっという間だ」
俺は今日を持ってここ、アスティア王国の辺境、アネモで『風の天秤』を営む。
多分全てがうまくいくことはないだろう。しかしそれでも、俺は全てを受け入れる。最後に俺が一番充実してたって自慢できる気がするから
◆◆
「暇だ……」
店を開いた。そこまではよかった。しかしお昼になっても一人もお客さんが来ないとは思わなかった。
「王都なら常に人が並んでるほどだったから余計に暇に感じるな」
今も暇だから適当にポーションやら毒消しやらを作ってるのだが、お客さんが来ないなら作っても意味がない。
まあこの店の存在を知らない人がかなりいるのだろう。どうしたら宣伝になるだろうか……
「そういえば街の様子やらまだ見にいってなかったな」
俺は店のカウンターから立ち上がり、作り終わったポーションを収納魔法で片付ける。
思い立ったら即行動。前はいろんなものに縛られて何もできなかったけれど、今は何も縛るものがない。全てを自分で決めて行動することができるのだ。
「よし、行ってきます」
俺は店の扉にかけてあるオープンの札をクローズにして店を後にした。
「街までは五分ってところかな」
俺の店があるのは街から少し離れた丘なので、人が来ないのはまあ仕方がないかもしれない。
「のどかだな、平和だ……」
王都と違い衛兵が常に闊歩しているわけでもなく、開けた草原にさらさらと風が吹くばかり。
「んー……すごい心地がいい」
このまま草原の真ん中に倒れてみたら気持ちがいいだろうな。
まあ着ている服が汚れてしまうからやらないが。
「それにしてもここは魔物が少ないな」
この世界には魔物という存在がいる。魔物という存在は不思議なことに、魔力を必要とせずに魔法を扱うことができるのだ。
そしてそんな魔物は人間に害をなすことも多々あり、それらを討伐するための冒険者組合というものが存在し、各街に支部が存在する。
そして通常ならば魔物は魔力が濃いところに多く存在し、人が少ないところによく生息している。
それを踏まえて今俺がいる街、アネモは人が少なく、通常の地域よりも魔力が高いのだがこの広々とした平原にスライム一匹も見えないのは異常なのだ。
「まあ平和なのはいいことだ。俺も冒険者やってみようかなー」
冒険者のすることは討伐だけではない。例えば薬草採取や物品の納品、街の手伝いなんてものもある。
俺はそれなりに戦うことだってできるし薬品採取なんかもお手のものだ。
暇な休日なんかに街の人との交流も兼ねて依頼をこなすのはありかもしれない。
「そうと決まれば冒険者登録もしないとな! うーん! なんか楽しくなってきた!」
先のことを考えるとワクワクする。わかるだろうか。こうムズムズする感じ。
俺は居ても立っても居られない気持ちになり、少し急足で残り少しになった街までの道のりを歩いた。
◆◆
「そこの君、止まってくれ」
俺が街の小さな門を潜ろうとすると、門の前にいた衛兵に止められる。一体なんだろうか。
「すまない、最近ここの領主様がこの地域の発展のために街へ入るための通行税を払ってもらうことになったんだ。冒険者登録をしてあれば別なのだが、君は持ってるかい?」
税ならば仕方がないだろう。しかし冒険者はいろいろ優遇されているな。
そういえば王都でも武器屋や宿屋が割引にされていた。
また一つ冒険者登録をする理由が増えたみたいだ。毎回街に入るごとに通行税を払っていたらもったいないからな。
「わかりました。いくらですか?」
「銅貨三枚だ。払えるか?」
ちょうどパンと同じ値段だ。それにしてもこの衛兵、俺を子供だと勘違いしてないか? まあ勘違いされてもおかしくないか。十八歳なんて普通ならパン一個買うのにも苦労すると聞くし。
「払えますよ。ちょっと待っててください」
俺は銅貨をささっと収納魔法の中から取り出す。
流石に硬貨を錬金してしまったら王様に怒られる。前に一度錬金したらかなり怒られてしまった。
なので今は常に収納魔法の中で持ち歩くようにしている。
「どうぞ」
「ああ、確かに受け取った。通っていいぞ。何もないが楽しんでくれ」
俺は衛兵に銅貨三枚をわたし、小さな門をくぐり抜けた。
*あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。
文章がうまくまとまらず、頭を抱える日々です。ぼちぼち投稿していくのでよろしくお願いします。
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