最低な兄に人格転移してから、俺の学園ハーレムが止まらない〜好感度が逆転した結果、モブ生活が終わりました〜

まちかぜ レオン

第1話 最低な兄と入れ替わってしまった

 人格転移。


 それは自分の精神が、他の人間と入れ替わるやつだ。


 フィクション作品では定番であり、男女が入れ替わって恋に発展するなんて甘い展開が多い。夢のある話だ。


 ……なぜこんなことを考えているか。


 俺こと入川いりかわ恭平きょうへいが、別の人間の体に人格転移してしまったからだ。


 双子の実の兄、翔也しょうやの体に。


「最悪だ……」


 翔也と俺は、別の高校に通っている。俺は地域の進学校、翔也は平均くらいの高校だ。お互いに学校の近くにひとり暮らしをしている。


 最悪最低の男――翔也は、高校でそんな悪名で知れ渡っているそうだ。俺の実感としても、その異名は納得できる。


 女性関係が完全に終わっていた。積極的な性格であり、好みの女を後輩や同級生に集めさせては、好き放題やっていたらしい。


 気に入らない相手には鉄拳制裁も辞さない態度で、何度も生徒指導を受けている。


 不良を地でいくタイプだ。僕とはタイプが真反対で、似た顔を持つ双子とは思えない。


 対する俺、入川恭平はモブの生活を送っている。たいしたトラブルも起こさず、色恋話に発展することもない、平穏無事な生活だ。


 人格転移の直前も、机に向かって勉強していた。テスト前ということもあって、夜遅くになっていた。


 うたた寝をしてしまったところ、起きたら知らない天井とベッド。スマホのインカメで入れ替わりを確信した次第だ。


「これからどうする……」


 時刻は午前二時。朝になれば学校だ。


 翔也の記憶が、実感を持たない情報として頭の中に入っているからだ。異世界転生系の小説でいえば、途中で前世の記憶を取り戻した感覚だろうか。


「……夢じゃないよな。本当なら、俺の体は――」


 翔也のもとにあるということだ。気分がいいものではない。


 今後の戦略会議をしようということで、不本意ながら翔也に連絡を取ることにした。


 数コールもしないうちに、翔也は出た。


『これはどういう状況だ』


 自分の声で、翔也の口調というのは不思議な感覚だった。


「俺にもわからない。入れ替わってるらしいけどね」

『出来の悪い弟に、俺の体を使われるなど、断じて許しがたい。はらわたが煮えくりかえりそうだ』

「俺も同意見だよ。人生最悪の日だ」


 売り言葉に買い言葉だった。


『信じがたい話だ。が、こうなった以上、好きにさせてもらう。お前の環境を滅茶苦茶にしてやるよ』

「正気なのか」

『俺は俺のやりたいようにやる。だから、後は勝手にしろ。基本的に、今後の連絡はなしだ。お互いの情報が筒抜けだと思うと、関わるのも面倒だからな』


 相変わらず、周りの評判通りのクソ兄貴だ。


「元に戻ったら、とか考えないのか」

『これは諸々の法則に反した奇跡みたいなもんだろ? どうなるかわからない以上、黙って受け入れるだけだ。わかったら、終わりだ』


 いった後に、翔也はもうひとつ、といった。


『いちおう、周りには、あまり悟られない方がいい。むろん、話したところで誰も信じないだろうが。この状況、楽しませてもらうよ』

「勝手にしてくれ!」


 答えて、すぐに電話が切れた。


 とりあえず、いまは翔也らしい振る舞いの練習をすこし。あしたの用意もだ。


 記憶を辿る。翔也の体の使い方に慣れていく。


 広まった悪名は、簡単には消せない。それでも、これから真っ当に生きることは、できる。すこしずつ、汚名返上だ。


 ある程度は翔也らしくいくが、人を傷つける横暴な振る舞いは抑える。そうして、徐々にフェードアウトしていく。


 そうしようと決意した俺は、慣れない体でベッドに横たわり、浅い眠りにつくのだった。




 * * *



 次の日。


 学校に着くや否や、異様な雰囲気を感じ取った。


 多くの人から向けられるのは、冷ややかな目線だ。知らない人に、大量の負の感情を向けられるのは、気分が悪い。


 これをものともしなかったアイツは、肝が座りすぎている。


「おはよ、翔也」


 教室に入ると、ひとりの金髪ギャルが声をかけてきた。


 鈴森すずもり陽子ようこというらしい。多くの男子と密接な関係を結んでおり、翔也も例外ではないらしい。


 中学の頃からの付き合いらしく、腐れ縁というやつだろう。


 最近、翔也がトラブルを起こして以来、以前よりかは気持ちは離れているらしい。


「おはよう。きょうもパワフルさ全開だな」

「なんだか、らしくないワードチョイス。喋り方も弱いし、なんか疲れてる?」

「そんなんじゃない。お前が気にすることもないだろうよ」

「いっけない、怒らせちゃった。ごめんごめん」


 素が弱々しいのだ。


 横柄で強い男を演じるなんて、一朝一夕できるものではない。そう思っておこう。


「きょうはなにかあるのか」

「放課後空いてる? 翔也と遊びたいなって。ちなみに、他の子を呼ぼうとしたんだけど、断られちゃった」

「わかった。付き合おう。来れない奴は、仕方ない」

「へぇ、無理くり呼ばないんだね。そういう気分もあるってわけね」

「そういうことだ」


 正直、現実を受け入れる気持ちは未完成だ。


 だからこそ、付き合いの長い人と接触して、すこしずつ慣れていくというわけだった。


「じゃあ、久々に翔也とふたりきりだ。ラッキー」


 そういうと、チャイムが鳴った。朝のホームルームの始まりだ。

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