痺れるような愛だった

2121

日常

 人のいない夜中に動くのはおもちゃだけではなく、実際のところ本気を出せば物はなんでも動けるものである。もちろん、人の形になることも。


 気持ち良さが体の芯を貫いて、ビクリと体が跳ねた。それでも乱暴に入れようとする相手を静止する。このままではどうにかなってしまう。ただでさえ電気が通っているのだから。

「あ、あ、待って、今動かないで」

「タップはまたイッたのかよ。ほんと早いよな」

「扇風機はいつも激しいんだよ」

 電源タップ、いわゆる延長コードたる俺は普段パソコンデスクの上で使用されていた。

 タップの数は二つ。

 普段はノートパソコンが刺さっているのだが、夏になると更に卓上扇風機が繋がれる。夏の間は主に扇風機が相手をしていた。

 その間ノートパソコンはずっと側で見ていた。俺と扇風機は、足を組みながらこちらを向くノートパソコンの視線にさらされながら果てるのだ。

「優しくして?」

「夏の間だけなんだから少しくらいいいだろ? それにお前も満更じゃないくせに」

 そう言われれば反論は出来ない。目の回るような激しい快楽に、俺は身を任せることにする。



 冬になると電気毛布が相手だった。

「僕だけがタップを優しく暖められるんだよ」

「あ……ん、……ぅん…………」

 入れられている筈なのに包み込まれる感覚がするから、電気毛布は不思議だ。問題はこうして長時間していると、熱くなってのぼせてしまうことだろうか。

 電気毛布に入れられている間もノートパソコンはただただ俺を見ていた。熱さに悶えながら、ノートパソコンの視線を浴びながら、俺は今日もまた果てている。



 春と秋の気候の安定したときにだけノートパソコンは相手をしてくれた。

 夜中に「なぁ」と声を掛けると、ノートパソコンは「今は自分しかいないから仕方なくやってやる」とでも言うように冷たい視線をこちらへ寄越す。

 前戯もそこそこに無機質な表情のまま挿れてしまって、その後はじっとりと時間を掛けて緩急も付けないまま挿れ続けている。

 無口なノートパソコンの気持ちを知れるのは、こうして繋がっているときだけだった。

 あまり動かないからイくにもイけなくて、じらして意地悪をしている様子に、「本当は扇風機や電気毛布へ嫉妬しているんでしょう?」と勘繰ってしまう。普段はこうして繋がったままゆっくりしているが、日によっては時に扇風機よりも激しい息遣いで、時に電気毛布よりも暖かく包み込み濃厚で熱い愛を寄越してくる。

 満足させられるのは私だけだ。

 お前を一番愛しているのは私だ。

 全ての行為を覚えているのも私だ。

 抜き挿しする度に、その事実を俺の体に教え込もうとする。嫉妬の熱に俺はいつ焼き切れてもおかしくないと思いながら快楽に身を任せている。

「ノートパソコンが一番好きだよ」

 そう数度果てた後に告げれば、ノートパソコンは動きを止めた。好きという言葉を使うと、いつもこうして一瞬思考を止める。

「一、心がひかれること。気に入ること。また、そのさま。

二、片寄ってそのことを好むさま。物好き。また、特に、好色。色好み。

三、 自分の思うままに振る舞うこと。また、そのさま。

どれ?」

「一だよ」

「心が惹かれて、気に入っている?」

「そう。俺はノートパソコンのことが好き。これからもずっと一緒にいたいよ」

「私はお前に対する感情が分からないよ。お前は誰でも受け入れてしまうから」

「嫌?」

「……嫌という程の感情も持ち合わせていない」

 そんな言葉を吐きながら、ノートパソコンは誰も触れたことの無い奥を目指すように俺のことを貫いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る