長耳除霊師 ロードス

Li'l Hatter

地球球体説VS地球立方体説

ある日曜日の朝。ひよこ鑑定士を生業としている山田家の父、亜堕夢あだむは、仕事休みにリビングのソファーに座り、サメ映画を鑑賞していた。すると、突然リビングのドアを──バンッ! と開けて、慌てて駆け寄る妻の聖夜いぶがいた。


「アナタ〜!! なんか息子の様子が変なの!!」

「今朝から騒がしいな〜、どうした?」

「なんか悪霊に取り憑かれたかのようにぶつくさと独り言呟いてんのよ!」

「えぇ……変な薬物でもキメてないよな。ちょっと歌音かいん(息子の名前)の様子見てくるわ」


そう言って父はソファーから立ち上がり、息子の部屋へ向かおうとした矢先、リビングのドアが静かに開く。なんと、中から出てきたのは、頭に銀色のアルミホイルの帽子を被った歌音の姿だった。そして息子は口をニチャアァ……と開いた。


「地球の形が丸いのは、N◯SAが広めた陰謀だ! 本当は立方体りっぽうたいが正しい情報なんだ!」

「うわぁぁあああーー!! 息子が陰謀論者になってりゅうううう〜!♡!♡!♡!」


息子がガチのマジで悪霊に取り憑いてる。そう確信した父は、すぐさまスマホで『除霊を専門としている方のサイト』を開き、問い合わせの電話番号にかけた。


ーープルr……ガチャ


『はい、こちら長耳除霊師ながみみじょれいしです』

「息子が悪霊? に取り憑りつかれてるんです! 大至急お祓いに来てください! 場所は、ピー(※自主規制音)です!」

『わかりました。では、すぐさまお伺いします』

「はい、お願いします……」


そう言って電話を切った父は、自分の気持ちを少し落ち着かせるために、サメ映画の視聴を再開した。


〜3分後〜


☆ピンポーン!……家のインターホンが鳴り、父と母はすぐさま玄関前に駆け寄り、ドア開ける。するとそこにはストリート系ファッションを着用した、金髪姫カットのエルフの女の子が立っていた。


「初めまして。僕は、長耳除霊師のロードスと申します。よろしくお願いします」


「「耳なっがぁぁぁぁああああっっ!!」」


父と母は、ロードスと名乗るエルフのなげぇ耳を見て声を揃えて驚く。


「はい、僕はエルフですからね。耳は長いですよ〜」

「へぇー、エルフってこっちの世界にもいるんだな……あ、申し遅れました。自分は亜堕夢です」

「私は聖夜よ。てっきりエルフは異世界にしか生息してないかと思ってたわ……」


2人は、目の前にいるロードスの長い耳を触りながら感心する。


「ところで、例の息子さんは今どこに?」

「あぁ、今リビングにいます。なんか『地球は立方体だ〜』、とかほざいてまして……」

「なるほど。息子さんは恐らく、エセ陰謀論を信奉する悪霊に憑依されたのかもしれませんね……分かりました」


ロードスはそう言って、リビングの床でチャネリングをする息子の元へ向かっていった。そしてロードスは彼の前で立ち止まり、口を開く。


「初めまして。僕は長耳除霊師のロードスと申します。よろしくお願いします」

「はっ、その長く尖った耳はもしや……悪魔の耳!? 貴様、さてはイ◯ミナティに悪魔召喚されたルシファーだな!!」


「No。 僕は、ラムセス2世君に召喚されたエルフです」


「はぁぁああ!? ラムセス2世ィィ!?」

「いや、アンタ歳いくつよ!?」


※ ラムセス2世とは、エジプト新王国第19王朝のファラオである。別名、建築王。


ロードスの衝撃的すぎるカミングアウトに、父と母は思わずツッコむ。


「それはさておき、今から息子さんに憑依した悪霊と会話交渉してみますね」

「「あ、はい。お願いします……」」


ロードスの言葉に父と母は頭を下げる。すると、ロードスは息子に視線を向けて口を開く。


「息子さんに取り憑く悪霊よ、耳と鼻の穴かっぽじってよぉーく聞くのです。地球が丸いのは科学的に証明されています。その証拠に、衛生写真で撮った地球が丸いからです」


と自身ありげに言いながらポケットの中からスマホを取り出し、証拠の写真を息子に見せつけた。しかし、息子はこの言葉に反論した。


「笑止! 何を見せつけるのかと思えば、N◯SAがCGで作成したフェイク画像じゃないか。こんなもんには騙されんよ」

「うーん、これモノホンの画像なんですけどね……ひょっとしてN◯SAのこと信用してないですか?」

「N◯SAはヘブライ語で騙すって意味だ。覚えておけ、うつけ」


ロードスを論破した息子は、勝ち誇った表情であぐらをかいて座った。


「おい! 息子に論破されてっぞ! 早く言い返さねぇと!」

「そうよ! もっと否定的な言葉をぶつけなくちゃ! 働け! とか、親不孝者! だとか!」


論破する息子の笑みに、殺意の波動に目覚める父と母に対して、ロードスは冷静に答える。


「ステイ。陰謀論を信じている方に否定的な言葉を投げ続けるのは返って逆効果です。最悪暴れるかもしれません」

「じゃあどうすればいいのよ!」

「そうですね……ここは穏便に、除霊道具を使いましょう」


そう言ってロードスは持参したカバンの中から、音叉と水晶のセットを取り出した。


「「なぁ〜にこれ? 」」


父と母は、ロードスの取り出した秘m……除霊道具を見て首を傾げる。


「これはクリスタルチューナーといいまして、このチューナーに水晶を優しく当てて音を鳴らすと、『人や悪霊、空間などを浄化することができる』のです」

「うーん、でも音で悪霊を浄化できるって俄かには信じ難いわね……」

「では、確かめて見ましょう」


ロードスはそう言って右手に水晶を持ち、左手にはチューナーを持った。

そしてチューナーで水晶の平なところを優しく叩いて音を響かせ、水晶の周囲をチューナーで円を描くように動かした。


──キィーン♪ キィーン♫♩


水晶の浄化パワーが音に乗せて歌音の耳に届いた瞬間──突然、「うあ"あ"あ"ぁ"ぁ"〜〜っ"!!」とうめき声をあげながら悶え苦しみ出した。そしてその光景を目にした父と母は驚愕した。


「嘘ッ!? 本当に効いてるわ!?」

「たかが音だってんのに!?」

「いえ、音は侮れない存在ですよ。古代エジプト人は音楽を『魂の薬』として呼んでおりまして、なんでも悪魔祓いのルーツとして使っていたそうです」

「「へぇ……」」


ロードスが語るエジプト雑学を聞いて思わずへぇ……と呟く2人。

そして息子はとうとう音に耐えきれなくなってしまったのか、その場で膝を折って床に倒れ伏した。


「「やったか!?」」

「いえ、倒れたのはあくまで息子さんだけです。彼を憑依した悪霊はまだ消滅してません」


ロードスの言葉通り、床に這いつくばる息子の身体から悪霊は離れ、3人の目の前にその全貌を現わした。


『ゼェ……ゼェ……』

「「ひぇ〜〜ッ!! でたあぁーーっ!!」」


悪霊の姿を目の当たりにした父と母は思わず 絶叫した。それもその筈、その悪霊の容姿がサメのような風体だったからだ。


『除霊師……ロードス……!』

「さぁ、語り合いましょ……君と僕の……信じる、宇宙論を……!」


ロードスと悪霊(サメ)は至近距離で睨み合い、そして一騎打ちが始まった……。


地球立方体説ちきゅうりっぽうたいせつ!!』

地球球体説ちきゅうきゅうたいせつ!!」


──ドゴォ!!


お互いの掛け声と共に腕と胸ビレが交差し、クロスカウンターが炸裂した。殴り合いの勝敗は──


『出直して……来な……うつけが』


悪霊(サメ)は平静を装ってロードスをdisる。しかし、そこで力尽きてしまったのか、地面にひれ伏すようにして倒れ、そのまま消滅した……フカヒレだけに。


「除霊完了です……(物理)」


勝利の女神は、ロードスに微笑んだ。


「勝ったのか……?」

「ええ、私たちの勝利よ! ロードスさん!!」

「はい! 成し遂げました!」


ロードス一行は、勝利の喜びを分かち合った。


(ラムセス2世君! モーセ君! ネフェルタリさん! 終わったよ……)


こうして、ロードスVS悪霊(サメ)の戦いは幕を下ろした……。その後、床に倒れ伏した息子は無事に目を覚まし、父と母はロードスに感謝のお礼を述べてから依頼料を手渡したのだった。


おしまい。


☆おまけその【キャラプロフィール&用語】


名前:ロードス

年齢:秘密(外見は15歳)

種族:エルフ(♀)

身長:160cm

髪型:姫カット(金髪)

一人称:僕

職業:長耳除霊師

【概要】

本作の主人公。紀元前13世紀頃に、ラムセス2世に召喚されたエルフで、神殿や記念碑の建築を邪魔しようとする悪霊たちを追い払って欲しいと彼に依頼され、建築している人たちを守りながら悪霊の群れをしばき倒していた。そして現在は日本の都会に移住し、除霊師を生業として生活している。趣味はボウリングとファッション。好きなおやつは、デーツクッキーとパイン飴。


エルフ(種族)

人間に近い容姿とアンテナのような長い耳が特徴的な種族。不老不死の存在であり、バナナの皮で滑って転んで死亡しない限り永遠に生き続ける。 DIYやアーチェリーが得意らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

長耳除霊師 ロードス Li'l Hatter @lilhatter

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説