満月への供花
@shizunawakui
序章
殺人、強盗、詐欺、レイプ、戦争、飢饉、汚職、医療ミス、食品破棄、温暖化、酸性雨、森林伐採、大気水質汚染、オゾン層破壊、いじめ、虐待、学力低下、運動能力低下、モラル低下、コミュニケーション能力低下、セクハラ、パワハラ、マタハラ、少子高齢化、男女不平等、未婚晩婚化、無趣味、無気力、無関心、無責任、言葉の乱れ、食生活の乱れ、語彙力低下、引きこもり、ニート、8050問題、嫁姑問題、モンスターペアレンツ、パラサイトシングル、ドメスティックバイオレンス、ルッキズム、活字離れ、理数系離れ、無知、無恥、孤食、孤独死、アルコール・ニコチン中毒、スマホ依存、迷惑系ユーチューバー、過労死、生活困窮者増加、鬱、ストレス社会、差別、偏見、誹謗中傷、感染症…… その男にとってそれはもはやお経だった。
狭く薄暗い部屋ではその男が蛇蠍の如く嫌っているバラエティー番組が小さなテレビから吐き出されている。もう不快感すら感じなくなっていた。
ニ十年、言葉にすれば短いが実際に生きてみれば長い年月だった。牛馬の如き扱いから、やっと人間らしい生活ができるようになって見えてきたものがたくさんある。
人間は思っていたよりずっと優しい。ただ、そう思っていたのは最初だけだった。
行き交う人々の、顔が見えなくなった。誰も彼もが争い合うことに怯え強い自我というものを捨ててしまったようだ。
この腐り果てた世界で。 誰もが生きづらさを抱えているなど大嘘だ。誰も彼もが普通に穏やかに波風立たぬように振る舞っていれば、毎日をそれなりに平和に生きることは実に容易い。
だがー その男は手にしていたワイングラスをバリンと割った。その程度のことで血が出るほどヤワな手ではない。その手を赤く染めていたのは、あくまでも真っ赤なワインの色だ。ポタポタと滴るその液体を委細気にせず、男は唸る。
「そんな上辺だけの平和のために恐慌が終わったというなら俺がもう一度起こしてやる。もう一度地獄を見ないと目が覚めないっていうなら。
男はもう何年も朝日を見ていない。不思議と心を落ち着けるのは無音の部屋にコチコチと鳴り続ける時計の音。
午前二時を示す時計がその男には満月に見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます