オーレリアン王子 1
(……なんで陛下がここにいるの?)
翌朝目を覚ましたフィリエルは、ベッドの端っこも端っこ、寝返りを打てば落っこちそうなところで眠っているリオンにギョッとした。
しかも布団には入らず、ブランケットを体に巻き付けて眠っている。
天蓋の外で人の気配がするから侍女の誰かが暖炉に火を入れてくれているのだろう。
フィリエルは起き上がろうとしたが、少しでも動けばその反動でリオンがベッドから落っこちそうな気がして動けなかった。
(陛下、いつ来たのかしら?)
記憶にないので、フィリエルが眠っている間に来たのは間違いない。
何か用事があったのかもしれないが、フィリエルが眠っていたから起きるのを待ってくれていたのだろうか。そして眠くなって眠ってしまった?
(……ちょっと無理があるかしら?)
夜中に訪ねて来なければならないような急用ならば、眠っていてもたたき起こされるだろう。
それをしなかったということはたいした用事ではないはずで、そうであるなら夜中に訪ねてくるのはおかしい。
じーっと見つめていると、リオンがくしゅんと小さくくしゃみをした。
(って、風邪ひいちゃう!)
フィリエルは慌てて掛布団をリオンの体にかける。
リオンのくしゃみを聞いて、部屋を暖めていたポリーが小さく天蓋のカーテンを開けて目を丸くした。
(しー)
ポリーが何か言う前に、フィリエルは口元に人差し指を立てる。
ポリーが頷いて仕事に戻ると、フィリエルはリオンが起きるまではベッドの上にいることにした。
(そういえば陛下の寝顔、久しぶりに見るかも)
ここのところ、フィリエルが起きるより早くリオンが目覚めていることが多かったのだ。
(ふふ、陛下の寝顔、可愛い)
いい夢でも見ているのだろうか、リオンの表情は穏やかだ。
隣にリオンがいたのには驚いたが、彼がゆっくりと眠れているようでホッとする。
(もう少し寝かせておいてあげたいな)
リオンの朝の予定がわからないので、フィリエルは小声でポリーを呼んで、あとでリオンの側近に予定を確認してきてもらうように伝えた。余裕があるようならもうしばらくこのままにしておいてあげたい。
(でも、落っこちそうだからもっとこっちに来てほしいんだけど)
腕を引いたら、寝返りを打ってくれないだろうか。
あんまり強く引いたら起きてしまうかもしれないので、軽く引っ張ってみようと、フィリエルはそーっとリオンの腕に触れた。――その時。
「きゃっ」
フィリエルは小さく悲鳴を上げた。
リオンが逆にフィリエルの手を掴んで、そのまますぽっと腕の中に抱き込んでしまったからだ。
「どうしましたか?」
悲鳴を聞いて天蓋のカーテンを開けたポリーは、リオンにぎゅうっと抱きしめられているフィリエルを見てにこりと笑って親指を立てた。
やったね、という心の声が聞こえてきそうである。
フィリエルは真っ赤になったが、ポリーが「ごゆっくり~」と小声で言って手を振って去ってしまうと途方に暮れた。
これは、どうしたらいいのだろうか。
リオンはまだ熟睡中である。
そのくせフィリエルを抱きしめる腕の力は強く、ちょっとやそっとでは抜け出せそうもない。
つむじのところにリオンの吐息があたる。
すごく恥ずかしいが、抜け出そうともがいたらリオンが起きてしまいそうで、フィリエルはどうすることもできなかった。
フィリエルは仕方なく、リオンが自然と起き出すまで、彼の腕の中でじっとしておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます