一人の夜 3
ベリオーズ国の第三王子オーレリアン。
フィリエルより二つ年下の二十一歳の王子は、どうやら昔からフィレエルのことが好きらしい。
(対策って言ってもねえ……)
リオンとの約束通り王妃の部屋で一人ベッドに横になって、フィリエルはうーんと考えた。
ロマリエ国王を通して、オーレリアンには断りを入れてもらっている。
そもそもフィリエルは人妻なので、求婚してくる方が間違いなのだ。
ステファヌによると、オーレリアンは独自の情報網でフィリエルがコルティア国でないがしろにされていたことを突き止めて、助け出さなくてはといらぬ正義感を起こしたらしい。
フィリエルがコルティア国でないがしろにされていないとわかれば納得すると思っていたが、リオンの生誕祭に出席するつもりということは、まだ納得していないのではないかと勘繰ってしまう。
(これまでベリオーズ国は陛下の生誕祭に外務大臣を遣わしていたからね……)
ベリオーズ国とコルティア国はそれほど交流がない。
険悪というわけではないし、必要最低限の付き合いはしているが、率先して交流するような関係ではない。
農作物や工芸品の輸出入も、ないわけではないが、他の近隣諸国と比べれば少ない方だ。
(クロデル宰相も少し戸惑っていたわね。ただ、オーレリアン王子も二十一歳だから、積極的に国政に参加するようになったのだろうって解釈していたみたいだけど)
王太子の補佐で第二王子がつくなら、第三王子が外交面の補佐に回るのはおかしくはないだろう。
しかし――、タイミングを考えると何か裏があるのではと疑ってしまうものだ。
うーんと唸って、ごろんと寝返りを打ったフィリエルは、無意識にリオンを探して視線をあげ、しょんぼりと肩を落とした。
(隣が寒い……)
リオンの安眠のためだ。致し方ないのはわかっている。
でも、猫になっていたときから考えると、一年近くリオンの隣で眠っていたから、一人になると寂しくて仕方がない。
(いつも眠るまでおしゃべりしてくれるのに)
ゆったりとした口調で、落ち着いたトーンで、リオンがぽつりぽつりと話すのを聞くのがフィリエルは好きだ。
最近リオンは、昔のこと、自分のことを、自分の感情を探るようにしながら少しずつ話してくれるようになった。
口にしたくないこともあるだろうに、自分はこういう人間なんだと、フィリエルに一つずつ教えてくれるたびに、彼が一つ、また一つと心の鍵を開けてくれているようで嬉しい。
話し疲れたらフィリエルの子どものころの話を聞きたがって、幼いころはとてもお転婆で、木から落ちて怪我をしたとか、かくれんぼをしたら隠れた場所から出られなくなって大騒動になったとか、ちょっと恥ずかしい話をするとおかしそうに笑ってくれる。
ただベッドに横になっておしゃべりするだけだが、フィリエルはあの時間がたまらなく愛おしかった。
(陛下の好きなものとかを教えてもらっておけばよかったなあ。……プレゼント、何を上げたら喜んでくれるのかしら?)
せっかくだから心のこもったプレゼントがいい。
そして、使ってくれそうなものがいい。
「……インク壺なら、使ってもらえる?」
かといって、買ったものでは味気ない。
うーんと考えたフィリエルは、そういえば以前、ヴェリアが水晶玉を持っていたのを思い出した。水晶を買って自分で加工したとも言っていたので、あの手の加工は得意かもしれない。
(ヴェリアに教えてもらって、水晶でインク壺を作ろう!)
これだ! と閃いたフィリエルは、リオンのかわりに枕を腕に抱きしめると、安心して眠りについた。
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