フィリエルの答え 6
リオンがぴくりと小さく震えたのを見て、フィリエルはそっと彼の手を握った。
「あのねお兄様。夫婦仲がどうとか、愛しているかとか、そういうの、余計なお世話ってやつですよ」
「余計なお世話とは何だ! 私たちはお前を心配して言っているんだぞ⁉」
「そう言いますけど、じゃあ……、お兄様はお義姉様を愛していますか?」
「は? あ、愛? そ、そんなこと、人前で言うようなことじゃないだろうが!」
顔を真っ赤にしたステファヌに、フィリエルは嘆息する。
「ほら、自分はそういうくせに、リオン陛下が答えなかったからって文句を言うのはおかしくないですか。リオン陛下に愛がどうとか訊ねる前に、まず、お兄様が人前でお義姉様を愛していると宣言してみたらどうです? ねえ、お義姉様」
水を向けると、ルシールがおっとりと微笑んだ。
「あら、面白そうですね」
「ルシール、お前も乗るな‼」
慌てはじめるステファヌに、フィリエルは内心で「ふふん」と笑う。
「夫婦仲は夫婦にしかわからないものでしょう? そしてわたしはリオン陛下と離縁して再婚するつもりはありません。これが答えです」
フィリエルがきっぱりと宣言すると、リオンが驚いた顔で見下ろしてきた。
ふわりと微笑めば、リオンの頬が少し赤くなる。
イザリアがリオンとフィリエルを見比べて、首を傾げた。
「お姉様はそれでよくても、陛下はどうなのかしら? 陛下は案外、お姉様と別れたいかもよ?」
(こいつやっぱり猫のときに引っ掻いてやればよかったかも……)
フィリエルはムカッとしたが、今は猫ではない。何とか笑顔を保つと、妹の余計な口を塞ぐ手立てはないものかと考えた。
(陛下はようやく人に心を開こうとしているところなんだから、余計なことを言って邪魔しないで!)
フィリエルがリオンの手を握る手に少し力を込めて、イザリアを黙らせるべく口を開こうとしたとき、リオンに視線で制された。
大丈夫かなあと見つめていると、穏やかな表情でリオンが言う。
「正直、『愛』という言葉を語ることは今の俺には難しい。だが、俺の妻はフィリエルがいい。他はいらない」
(……え?)
まさかリオンが、そんなことを言うとは思わず、フィリエルの頭が真っ白になった。
目を見開いたまま固まっていると、イザリアが肩をすくめる。
「それならまあ、仕方ないわね」
ルシールも微笑んで、ステファヌに視線を向けた。
「どうやら杞憂でしたわね、殿下」
「ああ。そうだな。だが……」
ステファヌがこちらに視線を向けて、ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべる。
「私たちは失礼しますが、リオン陛下。発言の責任は、取ってくださいね」
ステファヌがすっとフィリエルに人差し指を向けて「たぶん泣く」と言った直後、フィリエルの目から涙があふれた。
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