彼女の秘め事。

 ふと目が覚めた。

 まだ日は沈んでいない。

 そう思って携帯の画面を見る。


「ってもう一日たってるじゃん。どんだけ寝てたんだよ……」


 時刻はちょうどお昼過ぎ……って、


「まじかっ!」


 彼女と会う約束をしていることを思いだして急激に意識が覚醒した。

 時間までは決めていなかったが、なぜだかすごく焦っていた。


 俺は急いで支度を整えて家を飛び出した。

 心臓をバクバクさせながら外を走る。

 こんなに走ったのはいつぶりだろう。肺が痛い。


 何とか五分ほどで約束の場所につくことができた。

 そこにはすでに彼女の姿が見える。白いワンピースに、黒くて長い髪。彼女だ。


「はぁっ……はぁっ……」


「あ、ちゃんと来てくれたね。ってすごい汗だけど、大丈夫?」


「ああ、うん……おまたせ。平気だよ、これくらい」


 息を切らしながら、少し苦しげに答える。


「そうは見えないけど?」


 そう言って彼女は面白そうに笑う。


「あはは……」


 正直そんなに余裕もなかったので笑ってごまかした。


「そういえばさ……」


 呼吸を整えてから、俺は再び口を開いた。


「あのときはごめん」


「なに?」


 首をかしげる彼女。


「約束、守れなくてさ」


「ああ、そのことね。いいよ、もう。それに、仕方のないことだし。そもそもキミは悪くないもん」


 海を眺めながら、彼女は言った。


「そっか……そうだよね。でも、ずっと謝りたかったんだ」


「変なの。そんなこと今までずっと気にしてたの? もう五年も経ってるのに」


「うん、まぁね……」


 そんな言葉を交わして、お互いにクスクスと笑い合った。


「それで、よかったらなんだけどさ……あのとき俺に何を言おうとしてたのか教えてくれないかな?」


 ずっと気になってた。彼女が俺に伝えたかったこと。

 それが何なのか、知りたかった。


「んー、どうしよっかな」


 そう言っていたずらな笑みを浮かべる彼女。

 いったい何だというのか。


「そうだなぁ……。じゃあ、お祭りの最後に教えてあげる」


 何か意味ありげな表情で彼女は言う。


「えっ? なんで?」


「なんでも。聞きたいならちゃんと私と一緒にお祭りを回ること。いい?」


「う、うん。わかったよ」


 俺はとりあえずといった様子でうなずいた。


「絶対だよ? 約束だからね」


「うん。今度はちゃんと守るよ」


「よろしい。それじゃ、少し歩かない?」


 それからしばらく浜辺を散歩した。

 他愛もない会話をして、海の浅い場所で軽く遊んだりして。

 そんなことをしながら、ゆっくりとした時間を二人で過ごした。


 気が付けば陽は海に沈みかけ、空は茜色に染まっていた。


「もうこんな時間……」


 彼女がぽつりと呟く。どことなく残念そうだ。


「そうだね……」


 この景色を見ていると、なぜだか急に寂しさを感じる。


「明日も会える?」


「もちろん」


 俺は即答する。


「それじゃ、今日はもう帰ろっか。明日もまた同じ時間にここにきて」


「わかったよ。それじゃあ、また」


「うん、また明日」


 お互いにそう告げてから、俺と彼女は別れて家に帰った。

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