ヤクソクカノジョ。

晴時々やませ

再会。

 道路沿いの海岸。陽の沈みかけた海。

 小さな砂浜で夕日を背に彼女は言う。


『明日、学校が終わったらこの場所きてね。伝えたいことがあるの。約束だよ――』


 もともと予定していた転校が急に前倒しになり、俺は結局その場所に行けなかった。


 それから半年後。

 仲の良かった地元の友達から、彼女が交通事故で亡くなったという知らせが入った。


 それからもう、俺は一度もその場所に訪れていない。





 大学が夏休みに入り、五年ぶりに地元の田舎に帰ってきた。

 ここは昔俺が住んでいた町だ。

 道路沿いの海岸と、小さな砂浜。ザザー、という波の音以外に音はない。

 静かな場所だ。


 そんな道路のわきには、花束が置かれていた。

 そう、今日は彼女の命日だ。

 彼女は五年前にここで交通事故にあって、亡くなった。


 特別仲が良くて、実は彼女に惹かれていた。

 それだけに、その事実が俺の心にぽっかりと穴をあけてしまっていた。


 俺がまだ中学生だった頃、ここで彼女と約束をした。

 だけど俺はその約束を守れなかった。

 あの日、彼女は俺に何を伝えたかったんだろう。

 もしかしたら……なんて、そんなことを何度も考えていた。


 今でも多少引きずってはいるが、さすがにもうそういうわけにもいかない。

 けじめをつけるために、俺はこの場所に帰ってきたんだから。

 用意していた花束を添えてから、砂浜に足を運んだ。


「なつかしいな……。小さい頃はよく遊んだっけ」


 彼女はよく、この砂浜から海を眺めていた。

 白いワンピースを着ていて、靴も靴下も脱いで砂浜に置きっぱなし。

 長い黒髪を風に揺らして、ただただ海を眺めていた。

 そう、あんな風に――


「……え?」


 そこに、彼女がいた。

 いるはずのない、彼女がいた。

 ただ真っ直ぐに彼女を見つめながら、無意識に俺の足は彼女の方へ向いていた。

 彼女の近くまで来たとこで、俺はようやく我に返った。


 そう、彼女はもういない。今あそこにいるのは赤の他人なんだ。

 にしても、すごく似ている気がする。

 それこそ、彼女が成長したらこんな感じになってるんじゃないかと、そう思うくらいに。


 そんなことを考えているうちに向こうもこちらの存在に気付いたようだ。

 それからしばらく目が合う。やっぱり、彼女に似ている。

 なんて声をかけたらいいのかわからない。どうしよう、なんだか気まずい。

 少し間があって、なんとか声を絞り出した。


「あのっ……、その……海、好きなの?」


 それがとっさに出た言葉だった。

 声をかけたはいいものの、やっぱり気まずくてつい、目の前の彼女から視線を逸らしてしまった。


 そんな俺を見て、


「うん、好き」


 と、そう答える。

 視線を戻すと、柔らかい笑みをこちらに向けていた。

 その表情に、俺は胸を高鳴らせた。


「あっ……えっと」


 しまった。声をかけたはいいけどこの後はどうしよう。

 そんなとき、一人で焦る俺を見ながら、目の前の彼女はこう言ったんだ。


「――久しぶりだね。あれからもう、五年くらいかな」


 表情は変わらず優しい笑みのまま。


「――えっ」


 反射的にそんな声が漏れる。

 だって、彼女はもう――。


「どうしたの? あれ、私のこと覚えてない?」


 そんなわけない。でも、だって君はもう……。

 彼女は察したように口を開く。


「ああ、えっとね、私――幽霊になっちゃったみたい」

 

 照れたように笑う。だけどどこか少し悲しげで、寂しげだった。

 俺はこの日、幽霊になった彼女と、五年ぶりの再会をした。

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