青い傘
@takaryan060530
青い傘と
出会ったのは春先が過ぎて初夏に入る前の梅雨だったと思う。
そこまでひどい雨でもないし霧雨程度の1日を終えて今時珍しく開放されている屋上に行ってみることにした。
屋上は最初の頃は物珍しさに新入生が飾ってお昼を取ったりしていたが夏は暑く、風も強い。隅の方では鳥の死骸や糞なんかもあって自然と誰も寄り付かなくなっていた。
だからだろうか1人で黄昏れるようにアンニュイな気持ちを抱えつつ扉を開けると青い傘をさした女子がいた。
「何してんの?」
「そっちこそ」
仲良くもないクラスメイトと話すようなぶっきらぼうで記憶にも残らない応答だったのは彼女がさしていた傘と霧雨と屋上が水彩画のように綺麗に見えたからだったからかもしれない。
それが秋吉琴乃との出会い。
部活には入っていたが活動する日なんてのは限られていたから自然と話し相手を求めるために秋吉に会いに行っていた。
彼女は彼女で最初は邪険な顔をしていたが俺が気にせず話すことで会話はできるようになった。
「こんな映画があったの」
彼女は昨日あったこと、また映画を話す時少し嬉しそうにしている。
「あるホームレスが富豪から施しをもらってその施しを他の人のために使うの」
「それを見た富豪がお母さんにそのことを話すと私も昔ホームレスになっていて助けてもらったことがあるって」
「だからそのホームレスの話を聞いた時、 きっと彼はいい人だと涙ながらに伝えて富豪はホームレスに合わせようと思ったの」
「そのホームレスが結局助けてくれた人で今でも人を助けていることに感動して家に招いちゃうんだ」
「ホームレスは人に優しくするときっとその優しさは返ってくるって言ってた」
そう彼女はつらつらと言葉を並べて俺の方を見た。
「変だと思わない? もしそれが優しさだとしたら自己満足でしかならないでしょ? それって優しさなのかなって」
「やらない善よりやる偽善なのかもしれないけど俺だって嫌だな。 押し付けられたくない」
「だからさ、 気をつけないといけないとって思うんだ。 自分のやってることがエゴで押し付けでしかないのかなって」
秋吉は青い傘をくるくると回しながら空を見た。
空は相変わらずの曇天だが雨は降ってなくて少し涼しいなというのは覚えている。
知らなきゃいけない言葉やかけられなかった言葉。
俺たちがやったことは良かったことなのか。
考えないといけない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます