運命 作:平田貞彦
彼女に出会ったのは運命のチカラだと思う。
だけど、彼女に会い続けたのは自分のチカラだ。
運命の日から彼女を追い続け、名前、住所、電話番号、メールアドレス、勤めている会社、家族構成、趣味、趣向、特技、実家の住所、飼っているペット、好きな食べ物、好きな色、好きな番組、好きなYouTubeチャンネル、好きな[黒塗り]、その他諸々を調べ上げたのは、他ならぬ僕自身の力だという自負がある。
彼女への想いは、僕の人生で一番の原動力となって僕を突き動かした。彼女にまつわるすべてに関わるとき、ぼくは幸せだった。彼女を愛していた。
そうして、彼女を追い続けていたある日、彼女に僕の姿を見られてしまった。
失敗だった。彼女は旅行中だった。失敗だった。慣れない土地だった。失敗だった。深追いしすぎたんだ。失敗だった。足音を消し忘れたんだ。失敗だった。少し前から感づかれていたのかもしれない。失敗だった。僕の顔を見た、彼女の表情が忘れられない。失敗だった。その日から、彼女は姿を消した。
僕の人生、唯一の支えは失われた。元の生活に戻っただけだといえるけど、一度知った幸せの味は忘れられるものではなかった。「消息不明」という名の彼女からの拒絶は、彼女を探そうという僕の気力を根こそぎ奪っていった。失意の中で、僕はひたすら眠った。
彼に出会ったのは運命のチカラだと思う。
だから、今度は自分のチカラで、彼に会いに行くことにした。
運命の日から彼を追うべく、会社を辞め、家を変えて、彼に会いに行った。運命の地で再会するために。彼の名前、住所、電話番号、メールアドレス、勤めている会社、家族構成、趣味、趣向、特技、実家の住所、飼っているペット、好きな食べ物、好きな色、好きな番組、好きなYouTubeチャンネル、好きな[黒塗り]、なんでもよい。とにかく彼のことが知りたくて、会いたくて、好きになってしまった。好きになったんだから、仕方ないよね。
だけど、彼には会えなかった。いくら探しても見つからない。彼と出会った土地は入念に探し回ったし、半径数キロはしらみつぶしに歩いた。彼の特徴はしっかりこの目に焼き付いているし、彼がここに住んでいるなら、もう見つかっているはずなのに。
彼も旅行中だったのかしら。その発想に至った時、捜索範囲が途方もなく広がったことを悟った。でも、それでも諦めきれない。貯金はほとんど切り崩したけれど。家族とはしばらく連絡を取ってないけれど。会社からのメールは溜まる一方だけれど。
私は必ずあなたに会いに行く。待っててね、名前も知らないあなた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます