すき焼きが好きやき!
しろん
一皿目
すき焼き
まえおき
これはノン・フィクションやき。
よくない話やけども気にせんとこーや。
あんまり気にすると老けゆうぞ。
「恥ずい話」
「好きやき」と言うのは、せられんかった。
あん時、「好きやき」言うとったら
(つまりは素直になれたら)
今頃も、高知におったろうしな。
やけんどそりゃせられんかった。
振られるががえずかったがやない。
(えずい=怖い の意)
えずかったがは、何ながわからんまま。
今でも後悔しちゅう。
しっかし、戻れたとしても言えんが思う。
言わんがが唯一の愛じゃ、愛じゃ。
言うたら途端に臭いもんになりゆうき。
「ふらぺちーのが、一つ」
こん話は俺の話じゃ。確か秋口やな。去年の。
帯屋におったんやったな。学校をサボって。
そんでもって帯屋のスタバにおりったわけや。
前がはだけた白シャツに、ネックレスを掛けて。
ダボダボのズボンでポッケに小銭が入っちゅうた。
ジャラジャラと馬鹿な音を立てもって歩きよった。
しかも、白シャツの右腕の裏には血が滲んじゅう。
その時の傷はいまだに残っとる。
そんでもって泣きもって歩いちゅうた。
今思うたらだいぶ恥ずかしいカッコやな。
まぁ、泣きもってスタバに入りゆうたわけよ。
そのカネは脅して奪った汚いカネやけんど。
ウチは校則で金を持ち込んでしまいけんがと
言う話になっちゅうたわけやき。
んやき、持ちこんじゅうやつを脅かして
小銭を稼いじゅうって話よ。
なんで右腕から血が出ちょったかは忘れた。
確か、盗ろうとしょうとした時に
抵抗されて引っ掻かれたんやけんど
その傷が爪にしちゃまっこと深かったわけ。
そりゃあカットバン貼っても無駄や。
話を戻すと、泣きもってスタバに入ったわけや。
店員が訝しげな視線で俺を見たけんど、
俺ゃ気にせんといてって答えただけ。
その店員も警察なんて呼んだら面倒くさいき
放っちょいただけなんやろうけんど、
ともかくわしゃフラペチーノを頼めたわけや。
よう仲えい女子と週末に飲んじゅうたから、
くそみたく嫌なことがあった時らあ、
まっことえい事があった時は飲んどった。
しっかし困ったことがありゆうた。
金がどうにも足らん。
50円玉を100円玉と勘違いしちゅうた。
まじでこの時はえずかった。
いつもと違うわけやき、仲えい女子がおらん。
立て替えてくれる奴はおらんかった。
この時は恐怖を覚えた、殴られた時以上に。
金が足りんがはいかん。
そんで固まっとったら、横から話しかけられた。
後ろに並んどった人がおりったわけやけんど、
その人が「君、なんぼ足らんと?」言いゆう。
俺ゃパニクって「え、いや、すんません」って。
「なんぼ足らんか言うてくれたら、出すよ?」
そがな事を急に言われて戸惑うたけんど、
え、いや、大体40円ばあやけど。って言うた。
(〜ばあ=〜くらい / 3キロばあ=3キロくらい)
そしたらその人が50円玉だしてくれたわけ。
俺ゃ「すんません、すんません」って謝っとる。
ずっと頭下げちゅうたよ。申し訳のうて。
そしたらそん人が、「別にえいよ笑」言うた。
やたら綺麗な人やなぁって思っちゅうた。
ほいたら、その人は先輩やったが訳よ。
見覚えある顔やなぁって思いゆうて、
頭の中で考えちょったら、似た人を思い出した。
こんな派手なメイクはしちゅうがなかったけんど、
この人に違いないがやろうな。って思った。
一つ上の先輩で、不登校の人やと。
俺ゃ「え、先輩。っすよね?」言うた。
「おもいだしたい」
この人とは関わりがあった。
俺が一番荒れちょった時期。学校抜けちょった時に、
追手筋の方に行きゆうたら、
その先輩が「お、君は確か!」って話しかけてきて。
俺ゃ「は?話しかけんな、はよ死ね」言うたけんど
先輩は笑いもって「暇なが?やったら、遊ばん?」って
呑気に言い上がったわけがよ。
俺ゃ「話聞いちゅう?頭おかしい?」ってキレたけんど
「あはは、自分馬鹿やき!」って笑うだけやった。
これ以上口論するがも癪に障るし、
照れながら「ちっくとだけならえいで」言うた。
「その代わり、スタバ奢りや?」って照れ隠ししもって。
その先輩もなかなかえい人で、
「奢っちゃるよ!ほんじゃあきに遊ぼ!」って
どうにもうるそう言うてくる。
「わかったぜよ、はいはい」言うたら
「ありがと!でさ、質問してえい?」って
めんどくさい事言うてきたわけ。
「なんちや、、?」って訝しんだら、
「イオンかオーテピアか、どこで遊ぶ?」って。
何でおんしが決めんんちや思うたけんど、
「どこでもえいき。というか、
俺のバックの中にSwitch入っちゅーき
あんたの家でゲームしたいんじゃけど。
強いきボコボコにしちゃりたい」って
適当に言うてみたら、
「うちんく? 別にえいけど?」って答えてくれたわけ。
これにはわしも拍子抜けたけんど、
「つーかおんしんちどこや?
今、デスカ持ってねぇから。
近うやないと行かれんよ」って呟いた。
先輩の家はどこなんやろうな、思いもって。
ほいたら、「枡形やよ!」言うてきた。
近うやないか。それも、徒歩10分ばあ。
俺の家は山手の方向やき、近い。
枡形商店街の方ながか、それとも
グランド通りの方ながかはわからん。
けんど、家が近い人がおったのが嬉しかった。
先輩は怖い見た目しちょって、
見ゆーだけで結構えずいんだけんど、
性格はまっことえい人や。
ほんじゃあきに、口悪かったがは後悔しちゅー。
そがな感じで先輩の家に向かったわけ。
もちろんスタバは奢ってもろうた。
そんでブラックコーヒー飲もうとしゆうたら、
「そがなは胃に悪いがよ〜?
悪いことは言わんき、フラペチーノにしい?」
って言われたんだ。俺は先輩の言う通りにした。
フラペチーノがかは女の飲むもんで、
甘ったるくてまずいもんやと思っちょった。
実際飲んでみて、甘ったるかったけど、
先輩に奢ってもらったのが嬉しくて全部飲んだ。
怖いカッコしちゅう人でも怖くない人はおる。
先輩に教えてもらったことの一つだ。
先輩は中学生やけんど、ピアス開けちゅうたし、
高知では確かに浮いちょった。
服装も「地雷系」というやつ(先輩に教えてもらった)で、
高知県では見た事もない「ガイジン」みたいだった。
ただし、東京ではよく見る。
そんな変な先輩と隣に居っちゅうたら、街ゆく人から見られる。
ジロジロ見られて、その度にキレそうになった。
口うるせぇババアに「何あんたらそがな服着ちゅうて!」って
言われて、「うるせぇが!そればあ何が悪いがよ?」って怒鳴り返した。
先輩はそれを望んでなかったのかもしれない。
だとしても、俺の仲間を悪く言う奴は許せんかった。
棘を立てて、追い払うしかなかった。
先輩は「悪う言われて嫌なのはわかるけど平気やきよ〜?」って言った。
俺は、言い返した。「俺が平気やない」
先輩が悪く言われて平気なわけがないって。
先輩は驚いたような顔をした後、言った。
「そりゃあ君、好きバレしちゅうがよ笑笑」って。
俺は恥ずかしいのと悔しいのが混じって吐き捨てた。
「。。。好きやき、何が悪いと?」
先輩は笑った。「私みたいなの好いても碌な事ないよ笑」
「高知で生きてくのにこんな服してたらいかん」って。
俺の不良まがいも高知で生きてくのに良くはないけどな。
こんな会話を真昼間から追手門広場でしちょった。
高知城の天守を見上げながら、話しちょった。 俺は言った。「暗い話題は大っ嫌いやき。」
「階段上がってアイスクリンでも食うぞ、ついて来い」
先輩は立ち上がった俺に言った。
「君、お金持ってないでしょ笑」
俺はヤケクソでいった。「カツアゲしたのがあらぁ!」
そればあ奢っちゃるよ、好きやきよ!って。
先輩は俺の手を引いた。「ちょっと待って」
俺は不機嫌そうに眉を顰めた。「なんや」
君に渡したいものがある、と先輩は言った。
「なんやお菓子のゴミでも捨てろと言うんか?」俺は毒づいた。
先輩は俺の手に何かを乗せた。金属の鎖だろうか。
「はいこれ、君にあげちゃうからさ。付けてよ。」
そんなことを言われてもそもそもこれは何なんだ。
「先にこれが何か言ってからやな。言わんといかんよ。」
先輩は笑いながらいった。「ネックレスやよ笑」
俺は戸惑った。訳がわからん。
「はぁ?そがな女のつけるようなもんはいらんぞね」
先輩はあくびをしてから背中をポンと叩いた。
「男女共用やよ、私のお古やけんど使ったら?
君はカッコえいき、付けたら似合いゆうよ〜?」って。
俺は嬉しいのと恥ずかしいのが入り混じった苦い顔で言った。
「何や、俺が好きやき言っちゅうから気ぃ使ってるん?」
先輩は言った。「え笑 それはどうかなぁ笑」
バッサリ嫌いって言われた方が悲しくないのにね。
はちきんとは正反対の面倒臭い女やったわ。
俺は苦い顔をやめられない。「どっちか言えや」
「好きか嫌いかはっきりせんといかんよ」
嫌いやったらこの場から消えちゃるき、はよ言えって。
その答えはないままだった。面倒臭い奴め。
しかし、俺は嬉しかったのだろう。
今、これを書いている自分の首にはこの時のネックレスがある。
恥ずかしがっていても嬉しいものは嬉しいのだ。
そげなことしちゅうたから、今じゃフリースクールのお世話やよ。
荒ちゅうた頃はフリースクールなんぞバカにしちゅうたけんど、
今じゃそいつらと同類やき。
俺も落ちぶれたもんじゃのう、とつくづく思う。
悪という悪の限りを尽くしてきた俺も、
すっかり角が取れてニコニコしちょる。
かっこよさのカケラも残らんかったがかよ。
残ったのは、フリースクールの生徒になった事実という大きな負債だけ。
あの時ああすればもっと今より幸せだったのか?
あの時ああ言えばもっと今より幸せだったのか?
そんなことを今更言ったって、すでに手遅れなのは変わらんから
俺はイチから関係を作り直すことに決めて、
真面目に生活することにしてみた。
大都会東京の大地で、俺は一体何をできるのだろうか。
真面目に生きる価値を、見出せるのだろうか。
そしていつか、先輩にフラペチーノを奢れるように。
「すき焼きが好きやき」 2024/03/15
すき焼きが好きやき! しろん @kokoyoshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。すき焼きが好きやき!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
恋の話/真里亞
★15 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます