後編
目を覚ますと、そこは至って普通の森の中だった。
天を衝くような巨大な木も、色とりどりの不思議な植物やキノコもなく。目覚めたのは、霧に覆われたさっきまでの森とは違う場所のようだ。
しかし、あの不思議な体験が夢や幻ではないことだけは確かだった。
起きたときから俺の中に、渦巻くエネルギーの塊のような物があり、その力は三つに別れて連なるような形を成し、それぞれが性質の異なる何らかの力を秘めていることが分かる。これが先ほどの不思議な声が言っていた、『固有の性質を魔法化する可能性』なのだろうか。
俺は、直感に従って自分の中にあるその力に意識を向けて見ることにした。
自身の内側を探るように意識してみると、不思議な感覚と共に俺の中にあった力についての名称とどんな能力なのか、感覚的な知識のようなものが何処からか流れ込んでくる。
三つあるそれの、最初の一つは〝
二つめは〝
目の前へと現れた妖精自身が俺の中にあった力、〝
三つめは〝
「〝
俺は理解した自身の力を解き放つべく、
ああ……。
この力はまさに魔法だ……。
俺が右手を掲げると、手のひらの上には火が灯り、周りの風を取り込みながら、急激に大きな炎へとなっていく。燃え盛る炎はその色を橙色や青、紫や黄色などの様々な色へと変え続け、炎が色を変えるたびに舞い散る火の粉が猫や犬、虎や竜などへと形を変えて天地を問わず自由に走り回った。
左手を伸ばすと、その先には水が集まり球体を形作る。水球はゆらゆらと不定形を成していたかと思うと、次の瞬間には霧へと代わり、次第に水の粒が大きくなっていく。ビー玉程度の大きさになると、全ての水玉は一瞬にして凍りついた。
無数の氷たちは空中で無規則に動きぶつかり合うと、やがて無数の静電気を発して帯電していく。生み出した雷は、右手の炎と同じように、俺に一切の悪影響を与えることなく俺の意思に従い周りへと降り注いだ。
俺は、全能感に酔いしれて思い浮かんだ空想のままに、様々な超常現象を生み出した。
炎の幻獣が舞い、風雨が渦を巻き、雷が降り注ぐ。その暴虐の傍らで楽しそうに踊る
気がつくと俺は、まるで怪獣が暴れたかのような森の上空で、
自身が暴れ回った場所を上空から俯瞰することで少し冷静になった俺は、まずは山火事にならないようにと、燃えている火を目視するだけで、その火を掌握して消火していく。
抉れた大地に生み出した土を被せ、生命の息吹をその地に満たすと、やがて大地が緑に色付き新たな植物の芽が次々と育まれていった。
辺りの惨状を
ビルの十階ぐらいの高さだろうか。
山の起伏や森の木々に視界を邪魔されない位置まで上昇すると、魔法を込めた右手の親指と人差し指で丸を作り、それを右眼で覗きこんだ。
望遠鏡のようになったそれのピントを合わせることで、森の向こう側にある街並みを見てみると、今いる森が朝に入った森で、今見ている町が俺の住んでいる町であることが分かった。
本来ならばこれで安心できるところなのだが、街並みを可能な限り見渡してみると、いくつもの場所で暴動のようなことが起きているのが見える。よく見ると猪や野良犬、熊などが暴れているようだ。
俺の〝
「まずいぞ。急がないと!!」
俺は人々を助けるために、慌てて町へと向かうことにした。
本当になんて日なんだろう。
朝から入り慣れた山で遭難したかと思えば、ファンタジーよろしく世界樹みたいに馬鹿でかい木を見つけて、妖精を見つけたかと思えば、その妖精に
町へと向かって飛行しながら、そんなことを考えていると、左肩に座っていた
「ごめんよ、
慌てて
状況は最悪だが、見渡せる範囲にいるモンスターは雑魚同然。俺と
半日ぶりに帰ってきたとは思えない、住み慣れた町を眼下にして気合いを入れ直すと、俺のそばに浮かぶ
これは、高校一年の夏休み。
西暦一九九九年の七月二十一日のことだった……。
カブトムシを捕まえにいったら何故か妖精を捕まえたんだけど、気が付いたら住んでた町が滅びそうになっていたんだが…… 坂条 伸 @PotQue
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます