使い捨てられた召喚者の復讐譚

葦艸草生

召還

召還

 今日も、面倒だった学校が終わる。いつもなら、ホームルーム前には帰る準備を済ませていたが、今日はちょっとだけ残ることにした。 昨日始めたソシャゲのスタミナを、消費しておきたいのだ。


「さてと、そろそろ帰ろっかな」


 部活がある人たちは既にこの教室にはいなくて、帰宅部、あるいは今日部活が休みの人たちが駄弁っているだけだ。

 そろそろバスが着く頃合いなので、バス停まで向かう。いつもなら、学生で溢れかえっているここも、今日は俺、出柄柊斗でがらしゅうとしかいないみたいだ。


「来たか」


 腰かけていたベンチから立ち上がるとき、少し立ち眩みを起こす。


(…なんだ、疲れてるのか?)


 バスのドアが開く。体がやけに重い。家についたらすぐ寝よう。そう思案しながらバスに乗った…はずだった。


「うおっ…なんだ?」


 バスに乗ろうとした俺は、を起こす。階段がもう一段あると思って、なかったときのアレだ。

 困惑した俺は、周りを見渡して情報を得ようとした。


「んなっ…!」


 周りを見渡した結果、さらに混乱することになる。

 ここはバスの車内なんかではなく、薄暗く狭い部屋だった。

 周りに調度品等はなく、石製の壁と、木でできた扉が一つ見えるだけだった。

 床には、自分を中心に複雑な模様が書かれており、蝋燭が模様を囲うように置かれていた。


 そこに、コツコツと足音が近付いてきたので、構える。

 ギィ…と音をたてて、扉が開く。


「成功したようね」


 そこには、魔女のような服装の女性がいた。


 ───────────────


「…なるほど」


 どうやら、いわゆる異世界、に転移していたみたいだ。

 大きな帽子にブカブカのローブ、それに反して華奢な体躯。

 この、いかにも魔女という服装の女性は、名をスイカといい、隣の部屋から見ていたようだ。


 この召還魔術は、失われた古代の技術で、研究によって再び使えるようになったらしい。

 だが本運用は今回が始めてだったので、安全を考えて隣の部屋から発動したそうだ(俺の安全はあまり確保されていない)。


「隣の部屋から、窓もないのにどうやって?」と思ったが、その方法というのが魔法なのである。

 突拍子もないことだが、転移という超常を体験すれば、無理矢理納得させられる。

 その自分をこの世界へと呼び寄せたのも魔法ということだろう。


 やや、説明不足感は拭えないが、大まかな流れは掴めた。

 きっと、ファンタジーでよくある、お前が魔王を倒してこい的なやつだ。


「ってことは俺、勇者とかなのかな…」

「勇者?」


 まずい、独り言を聞かれたようだ。何か怪しまれたりしないだろうか。


「…勇者を既にご存知なのですね。なら話は早そうです。ですが、勇者かどうかはステータスを確認しないことには…」


 何とかなりそうだ。

 そ、それよりこれは、あのステータス確認イベント…!

 俺には何か才能があって、きっと見たことないスキルが表示されたり、計測器が壊れたりして計測不能とか言われるのだろう。

 こういうイベントは決まって、俺のような平凡な男子高校生にのみ起こるのだ。


「これから向かう部屋に、ステータスを計測する魔道具があります」


 どうやらこの部屋は計測ができる魔道具室から遠いようで、というかここだけ敢えて距離を置いているようだ。スイカが言うには召喚魔術はそれでけ危険であり、近くの魔道具に干渉したり、されたりする可能性があるそうだ。

 俺は長い廊下を渡りながら色々なことを聞いた。

 ステータスにはいわゆるレベルに、ジョブごとにあるジョブレベル、スキルなどがあるそう。

 この辺は如何にもテンプレだが、計測する以前に、レベルが1固定ということだけは確定しているようだ。

 ジョブは本来一人につき1つ。だが召還者だけは2つ、勇者に至っては勇者を含めて3つも発現する可能性があるようだ。

 スキルはジョブによって獲得できるものが決まっており、基本的にジョブを育てていくことで獲得できるのだが、初めから持っている場合もあるらしい。スキルは最初から持っていなくとも、いずれ手に入るものなのであまり気にすることはないそう。

 結局、今回ステータスを見るのは、ジョブの確認の意味合いが強いそうだ。


(この手の転移ものは勇者以外が実は強かったりするのだが、勇者を除いて2つもゲットできるのだ。勇者をひくのが一番強そうだが…)


「着きました」


 あの長い廊下を渡って、一番最初に見えたそこに魔道具室があった。

 部屋に入ると、そこには用途不明の魔道具が大小様々あった。

 スイカはその中から1つ取り出し


「ではこちらの石版に手をかざして、「ステータス」と発生してください」


 うっすら光っている気がする、石でできた板を渡してきた。

 俺は素直に、というか興奮を抑えきれず前のめりに


「ステータス」


 と唱えた途端、石板に文字が浮かび上がる。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 デガラ シュウト


 ジョブ 斥候 僧侶


 スキル 翻訳(共通) 監視(斥候) 回復魔法(僧侶)


 攻撃 10

 防御 10

 魔力 20(僧侶10)

 魔防 20(僧侶10)

 俊敏 30(斥候20)


 ~~~~~~~~~~~~~~~


「これでいいのか?」

「ええ、問題ありません。ありがとうございます。今回はは我々が確認するために行ったので、自分で確認するためだけなら魔道具は必要ありませんよ」


 試しにステータスを見ようとすると、先ほど映し出されたものが確認できた。

 斥候と僧侶。あまり強そうには思えないが


「ジョブの名前的には、単独で動くには少々心許ないように思えるのですが」

「そうですね、あなた一人に魔王は倒せないでしょう」


 やはり魔王がいるようだ。


「ですので、我が国が誇る騎士団と共に、魔王を討伐をしていただきたいのです」


 ここもどうやらテンプレ展開のようだ。

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