69話 株式会社スパークル
俺達十人は、偵察の情報を踏まえて改めて計画を練り直した。
風竜と複合型の位置は近いため、同時に相手取ることになると想定された。
情報と想定を元に、様々な案が寄せられる。十人の知恵、発想、能力、技能を合わせれば勝率は五分まで上げられるかも知れない……といったところだ。
案の定だが、俺達リーダーの意見は割れた。
「俺達は攻撃役が多い。火力で押すだけで良い勝負はできる筈だ。攻撃を軸に組み立てるぞ」
「相手は風使いだぞ。近付くだけでも苦労するだろうに、タゲとショートの近接隊が五人だ。ロングは二人だけだし、分が悪いよ。サポートと回復を前提にしないと火力が発揮できない」
「並の兵ならな。この十人ならできる。うちの五人が強いことは勿論だが、昨日見たイルネスカドルの戦力だって信頼に足るものだ」
「……俺だって、できると思いたいさ。でも怪我による戦闘不能者が出ることも予想がつくだろ。回復役が少ない以上、一度戦線を離脱すれば、おそらく戻って来れない。そうして犠牲を出すのが一番怖いんだ」
こうなれば当然、メンバーの意見に委ねられる。最初にうちのメンバーの意見を聞いた。
カルミアさんとログマは、割と前向きだった。
「この会議で皆の出来ることの幅の広さが分かったから、積極的に攻撃して大丈夫だと思ったよ。万が一の撤退手段を用意するのは必須だけどね」
「まあ他は別として、俺は死なねえだろうし、ちまちま進める気はないな。俺には権限がねえから任せるが」
ウィルルはどうだろうか。
「私は、怖い。回復専門は私だけなのに、戦闘が長くなると役立たずになっちゃう。早く終わりたい……」
そして、ケイン。――俺は風竜襲撃の時の怯えた姿がずっと気に掛かっているが、そんな事を感じさせない明るくて頼もしい雰囲気だ。逆に心配だが。
「うーん。私もルルちゃんに賛成。私達とヤーナさんが三人で協力すれば戦略も広がるし、慎重に安全に戦う策も立てられる。でも、決着する前に精霊力が尽きちゃうんじゃないかな……」
おやおや? 呆然と前を見た。
「……うちのメンバー、全員レヴォリオ寄りらしい」
レヴォリオは吹き出した。
「ふははっ、そういう事もあるんだな」
そして、スパークルのメンバーを見渡した。
「お前らの意見も聞かせろ」
彼らは黙っている。少しの間の後、ヤーナさんだけが、肝が据わった凛々しい声で答えた。
「あらゆる可能性や策が出ました。その上でリーダーが出来ると考えるのであれば、私は従います」
レヴォリオの鋭い目が少し輝いた。
そして、メンバー四人へと視線を揺らしながら、歯切れが悪く話し出した。
「俺は、このメンバーならやれると思ってる。……あー。だからこそ、そのために、お前らの意見も尊重? して……みようかと……」
皆は無言だが、その身じろぎから、驚き戸惑っているのは明らかだった。ふっと笑ったのは俺だけだ。
レヴォリオはむず痒そうに、懸命に言葉を選んだ。
「……俺は……絶対やれると思ってんだよ」
さっき聞いたぞ、レヴォリオ。頑張れ。
「……だが、まあ、怪我や死を避けたいのも、理解はできるぞ。お前らが不可能と思うならそれまで。無理に連れて行く事はしない」
腕を組んで足を揺らす姿は、我慢に我慢を重ねているように見えた。
「俺の案は攻撃主体。だが俺個人は、お前らを守る手段を優先的に考えて戦う。怪我は最小限に抑えて、万一討伐が失敗した時の責任もとるつもりだ。勿論、危険は避けられない……けど」
彼はいつもの強い眼差しで、まっすぐに仲間を見つめた。
「――ついてきてほしい」
こうなればレヴォリオは無敵のリーダーだ。顔が緩んだ。彼の力や自信、努力の昇華される様が、あまりに眩しくてちょっと悔しい。
トラクさんが困惑したように口を開いた。依然として、彼の頭の包帯は外れていない。
「リーダー、変っすよ? なんかあったんです?」
レヴォリオは、小声で何か言いながら顔を逸らした。それを見たトラクさんが笑う。
「うはは。すげー面白い。――自分は見ての通り万全じゃないっすよ? 死にたくもない。怪我は庇って戦います。それでもいいんです?」
レヴォリオは口をへの字に曲げながらも、しっかりと言った。
「……お前は元々強い。出来る限りを尽くせば、充分だ」
トラクさんはふふんと鼻を鳴らして、言った。
「それなら、ついていきますわ。仕方ないな」
レヴォリオは顔を綻ばせ、頷いた。
次に向いたのは、ロングレンジアタッカーの若い女性。
「テレゼ、お前はどう思う。……なんでも、言ってみろ」
テレゼさんは俯いた。綺麗な短い黒髪の陰から、小声が漏れ出る。
「私も、リーダーについて行きたいです。ロングレンジとして、積極的に攻撃したいと思っています。でも、自信がなくて……。リーダー、効果的かつ安全に動く方法を、教えて頂けますか」
「ああ。お前は大事な戦力だ。頼みたい場面も、守るべき場面も、指示はする。約束する」
テレゼさんは、気弱そうに、だが確かに頷いた。
「ありがとうございます。頑張ってみます」
レヴォリオの瞳は輝きを増した。
最後は、発言するところを見た事がない、初々しい男性。ロールはレヴォリオと同じ、ショートレンジアタッカー。自信がない雰囲気が、俺にも分かった。
「ナウト。お前はまだ、入社してから日が浅いな。今回の仕事は、経験した中で最高の難易度だろう?」
ナウトさんは無言で縮こまったまま、こくりと頷いた。
レヴォリオは軽いため息をつく。
「俺はこれまで、お前の意見を一度も聞いた事がない。今くらい、素直になんでも言え。この仕事、やれるか」
ナウトさんの沈黙は長かった。でも、沈黙を破ったのは、強く、通る声だった。
「やれます」
レヴォリオは嬉しそうだったが、ぐっと唇を噛み、今一度尋ねた。
「本当か。無理は、しなくていい」
彼はぶんぶんと勢い良くかぶりを振った。
「無理はしてないです。やる気はあります!」
頼もしい返事の後、なぜか項垂れる。
「……でも、あんな強敵との戦いで、僕にやれる事あります? 足手まといになりそうだし、僕はやめといた方がいいのかなって、悩んでました」
レヴォリオは明らかに苛立った顔をした。拳に力を入れ、ギリギリ耐えたようだ。
「……あ……る」
「えっ?」
「やれることは、その気になって、探せば、沢山、いくらでも、ある」
「本当ですか」
「……ふぅ……お前は、機動力に秀でた斧使いだ。射程の広い風竜の攻撃を掻い潜り、懐に入る力がある。俺はお前と連携することで、選択肢を広げられる」
ナウトさんはそれを聞いて、少し身を乗り出した。
「役に立てるなら、是非行きたいです」
そして、また気弱になった。
「――でも、リーダーの指示に頼らせて下さい」
レヴォリオは不満げに吐き捨てた。でもその口元は少し緩んでいるのが、俺には分かった。
「勿論だ。だが、今後いつまでも甘えん坊でいられちゃ、困るからな!」
声を出して笑った。
「あははは! なんだ、皆レヴォリオ派だね」
レヴォリオはニヤリと笑った。
「ルークの士気を高めるには何が必要だ?」
俺も口角を上げた。
「いや、大丈夫。俺が慎重派だったのは、何より、皆の負傷を心配してのことなんだ。その皆がリスクを呑むと決めたなら、言うことはない。ガンガンいこう」
だが、俺の最優先事項は変わってない。皆を守るための行動は続ける。
「――でも、俺はやっぱり犠牲を出すのが怖い。俺が想定してる失敗パターンと不安要素を挙げていくから、対策を講じないか? そこにレヴォリオの攻め手を乗っければ、作戦がより磐石になると思うんだ」
「なるほど。悪くない。話してみろよ」
こうして、ようやく、俺達の足並みは揃ったのだった。
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