星降る夜に

ひつじの部屋

第1話 夜の散歩

星野夢子18歳。高校三年生。

趣味は、散歩をすること、特に夜の散歩が好き。

とある日、いつものように散歩に出かけると、途中で猫さんに会った。

「おいで〜」そう言いながら、話をしながら徐々に距離を詰めていくのがポイント。

近くに咲いていた猫じゃらしを抜くと、猫さんに向けて、チラチラとふる。

すると猫さんはその猫じゃらしを興味津々に眺め出した。

それから1分間くらいずっと、猫じゃらしをチラチラしていると、ようやく遊んでくれるようになった。

ぺしぺしと猫じゃらしでじゃれる姿がまた、可愛い。野良猫だった。

私は動物に好かれやすい。

そういう体質なのだろうか?

動物は元々好きなので、嬉しいことだ。

そんな時だった。

ふと顔見知りの男性が声を掛けてきた。

「猫好きなの?」振り返ると、奴がいた。

奴、そう、私を虐めていた男子だった。

「どういうつもり?」私はそう答える。

「やっぱり覚えていたか。俺の事。」彼は悲しそうな顔をしながら私の方を見た。

「当たり前でしょ。貴方のこと嫌いだもの。」ズバッとそう言うと、「なら何故、あの時好きだと言ったんだ?」彼はそういう。

言葉を飲み込み、私は答えた。

「嫌いだからよ。嘘ついたの。貴方が私にしたように、貴方がその後どうなろうが私には関係の無いことだもの。」彼は俯き、「そうか。」と言った。

「ねぇ、どうして私と向き合おうとしなかったの。どうして私を傷つけることで逃げたの。私は私なりに貴方とちゃんと向き合おうとしたのよ。」彼は少し黙り込んで、答えた。

「ごめん。って言っても許されることじゃない。ただ君と仲良くなりたかった。当時の俺にはその方法は分からず、君はずっと黙ったままで、どうしたらいいのか分からなかった。」 彼も同じ気持ちでいた。

「私は、貴方のこと、許せない。でも、私も貴方と仲良くしたいとは思っていた。これは本心だから。だから貴方と向き合うことを辞めなかったんだと思う。」

涙目になりながらそう言うと、彼は「うん。」と頷き、こう言った。

「それは分かっていた。それは、きっと俺も君も、同じ気持ちだったんだと思う。ただ、俺たちは価値観が違うから、すれ違ってしまったんだ。」

寂しそうな目をしながら、泣きそうな声でそう言うと、「なぁ、この近く、公園あったよな?一緒に行かないか?散歩がてら。」と続けた。

「いいけど。」警戒したように私は答え、彼の隣を歩いた。

「懐かしいよな。」隣を歩く彼が呟く。

「こうしてよく一緒に帰ったよな。」私の方を振り向く、私は目を合わせず、前だけを見て、「そうだね。」と答えた。

「なぁ、俺が夢子のこと好きだって、知ってた?それとも本当に知らなかった?」

少し間が空いたあと、「知ってた。」と、私はそう答えた。

「そうか。伝わっていたのか。」安心したような顔しながら彼はそう言った。

「ねぇ、私たち、大人になってからだったらもっと違ったのかもしれないね。仲良くなれたのかな。」私がそう言うと、彼は、「そうだな。俺たちもっと素直だったら上手くいっていたかもしれないな。お互い頑固者だったしな。」フッと笑いながら彼はそう言った。

公園に着いて、ブランコをこぎながら会話を続ける。

「そういえば、こうして遊んだこと、なかったよな。」そう彼が言う。

「あー。確かに、皆んなと遊んだことはあるけど、二人でこうして遊んだことはなかったね。」私はそう答える。

キィキィと音を立てて揺れるブランコ。

冷たい風がマフラーの隙間を通る。

「さっむ。」途中でこぐのを辞めて、手にハーっと息をかけて温める私を見て、「ちょっと待ってて。」と言うと、彼はブランコから立ち上がり、近くの自販機に向かった。

買ってきてくれたのは、温かいココアだった。私は「ありがとう。輝のくせに気が利くじゃん。」と言うと、「「くせに」は余計だろ笑」と彼は笑った。

「あのさ。何で今日ここにいたの?」私は気になっていたことを彼に話した。

「何か気分?」彼はそう適当な感じに答えた。

「ねぇ、私を虐めたこと、覚えてた?」珍しく彼の顔を見ながらそういう私に、彼は「うん。酷いことをしてしまったと思っている。幼稚だった。」と言った。

「やった側は覚えてないとか言うけどさ、輝は覚えていたんだね。」貰ったココアで手を温めながら私は嫌味っぽくそう言った。

「ああ、どんな反応されるか分からないけど、謝ろうと思ったんだ。明らかに俺が悪かったし、そう気づいたのは、卒業する前だったんだ。」あの日、彼は反省していたんだ。

そう考えると、なんだか安心した。

「俺も夢子のこと見習って、ボランティア活動したりしてるんだ。人の役に立ちたい。」

変わった彼を見て、私は驚きを隠せずにいた。

彼の貰ったココアをカシャッと開けて、飲み、一息白い吐息を吐いたあと、「そうか。良かった。」と答えた。

「ねぇ、1つ聞いてもいい?」

「なんだ?」彼がそう言うと、私は、ずっと気になっていたことを質問した。

「私のどこを好きになったの?」彼は戸惑いながらも、ゆっくりと答えた。

「一目惚れだった。」耳を赤くしながらそう答える彼に私は、「そうか。」と言った。

「本当は私も最初は好きだったんだけどね。虐めさえなければ。」なんて言うはずなく、私はブランコをギィギィこぎながら、更に高くこいだ。彼も負けじと高くこぎだした。

「ジャンプして遠くに飛べた方が勝ちね!そしたらマック奢り!」唐突に勝負を仕掛けてブランコから思いっきりジャンプをした。

「えぇ!?はぁ!?ちょっ!反則!」彼も慌てながらジャンプをして、ズッコケた。

「あははははは!!」私は大笑いしながら転げ落ちた。

痛そうに彼は立ち上がると、「笑いすぎ。」と恥ずかしげに答えた。

「よし!私が勝ったことだし?マック買ってもらおうかな。」自慢げにニカッと笑うと、彼は「しょうがねぇな。何がいいの?」と言った。

「うーん。ダブルチーズバーガーかな!」悩む間は短く直ぐに決まった。

「他にほしいものは?」彼が聞く。

「オレオクッキーのアイス!」公園の出口まで向かいながら二人で歩く。

「しょうがないな。相変わらずよく食べるんだから。」彼は呆れた顔をしながらそう言った。それからこう答えた。

「ああ。そうだ。」彼は立ち止まった。

私は振り返りながら「ん?」と言って、立ち止まる。

「夢子、ごめんなさい。あの時のことまだちゃんと謝っていなかった。」

彼は深々と頭を下げてそう言った。

「うーん。友達になってくれるなら許す。」

私はまた目を合わせないでそう答えた。

彼は、「いいのか?」と頭を上げ、私の方を見つめる。「うん。」私はそう答える。

「言ったでしょ。本当は仲良くしたかったんだよ。私も。それは輝も同じでしょ?」

再び歩きだし、私は話を続ける。

彼は嬉しそうに笑った。「ああ、なぁ、夢子。」

「何?」私はツンとしたように返事をした。

「ありがとう。」彼はそう微笑んだ。

「別に。」その笑顔を見た後、私はすぐプイッと、前を向いた。

「あー!マック楽しみだなー!」恥ずかしさを紛らわす為に大きな声でそう言う。

「そうだな。」ふはっと笑いながら彼は駆け出し、私の隣を歩いた。

ちょっと曇り空だった空には、気づけば満月が顔を覗かせていた。





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星降る夜に ひつじの部屋 @himecan1122

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