第44話

 レオンはこのクラスで唯一の徒手だった。


 他の生徒が魔術やマナを武器に纏わせるのに比べると心許ないように思える。


 しかしレオンはマナを自分から離すのが決定的に苦手だった。


 それを見てコンラッドは親近感を覚える。


「素手か。いいね」


「いくぞおらぁッ!」


 レオンはコンラッドに向かって踏み込んだ。


 あっという間に二人の距離は詰められる。


 レオンは素早くコンラッドに拳を打ち込んだ。


 だがコンラッドは首を曲げるだけでそれを避けた。


 そして避けると同時にレオンの腹を蹴り上げる。


「がはっ!」


 レオンは息が出来ず、そのまま後ろに吹き飛ばされた。


「良いパンチだ。筋が良い。ただ振りがまだ大きいな。もっとコンパクトに打て」


「うるせえよ……」


 言われなくても大振りのパンチが当たらないことをレオンは理解していた。


 レオンはふしゅーと息を吐き、再びコンラッドに向かって走った。


 今度はギリギリまで近づき、コンパクトに早く振る。


 しかしコンラッドには当たらない。


 最小限の動きでレオンのパンチを躱していく。


 それでもレオンは攻撃し続けた。


 思考は当たるとか当たらないとかではなく、もっと上手く打てるんじゃないかに切り替わっていく。


 それはコンラッドにも伝わり、自然に笑みがこぼれる。


 だが最適化の限界を迎えてもレオンのパンチはコンラッドに当たらなかった。


 絶望を振り払うかのようにレオンは歯を食いしばり、渾身の一撃を放つ。


 コンラッドはそれを待っていたかのように躱し、そして伸びてきた腕を掴んで地面に投げつけた。


「かっ……!」


 打ち付けられたレオンはダメージと疲労で動けなくなった。


 激しい攻撃だったが、結局レオンはコンラッドに触れられなかった。


 コンラッドはレオンを見ろした。


「センスだけならこれまで見た中でもピカイチだな。最後まで怯まなかったのも良い。ただ荒い。マナは水だ。力任せに動いてもついて来ない」


 レオンはすぐにでもコンラッドに襲いかかりたかったが、結局回復できなかった。


 コンラッドは他の生徒達に向き直した。


「さあ。次は誰だ?」

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