第20話
翌日の昼。
コンラッドは支度を終えて屋敷の出口に立っていた。
「じゃあ、俺はこれで。お世話になりました」
「いえいえ。道中お気を付けて。王によろしくお願いします」
コンラッドはニコリと笑った。
「もちろんです。じゃあ」
コンラッドはそのまま歩いて馬車の乗り場まで向かう。
ピエールが送ると言ったが断っていた。
コンラッドを見送るとピエールは準備を始めた。
身を隠す。しかしそう遠くではない。
ここから少し離れた屋敷の見えるホテル。その最上階で大捕物を見学する算段だった。
そこは砦の様子も分かる好立地で、双眼鏡を用意したピエールは最上階を貸し切りにしていた。
移動を終えたピエールは高級ワインを飲みながらゆっくりとその時を待っていた。
部下の男がボトルからワインを注ぐ。
「ご機嫌ですね」
「ああ。ロンにはエルフの娘を捕らえろと言っている。冷静に考えれば獲物があちらから網にかかってくれるのだ。捕らえない理由がない。多少の犠牲は出るだろうが、逃げ場はないのだ。捕まるのは時間の問題だろう」
ピエールはワインを飲んでニヤリと笑った。
「エルフは裏で高く売れる。王都にそういう趣味の貴族がいてな。売ればカネとコネ。両方が手に入るのだ。あの女の末路を考えれば可哀想だが仕方ない。それが弱き者の宿命なのだから」
それからピエールは女を呼び、酒を飲み、高級料理を食べてその時を待った。
屋敷の周りは明かりを灯しているからなにが起きているのかはっきりと分かる。
今か今かと待ち構えていたピエールだがその時が来た。
しかし事が起きたのは砦のことだ。
砦の近くにエリン達が移動していた。
「話と違うじゃないか……。まあいい。砦にも人員はいる。攻めてくるなら捕まえて……ん?」
ピエールは異変に気付いた。
双眼鏡で見えたのはいるはずのないコンラッドだった。
エリン達と砦を守るロンの間に入り、なにかを言っている。
エリンとロンは驚いていたが、争う様子はない。
「なんだ? なにが起きた? ええい。ここじゃ分からん! 馬車を出せ!」
ピエールは部下に馬車を用意させ、急いで砦に駆けつけた。
慌ててコンラッドに駆け寄る。
「コンラッド殿! 一体なにをしてるんです? 王都に行ったのではなかったのですか?」
「あら。バレちゃったか。まあ仕方ない。こういうことです」
コンラッドはピエールに一枚の紙を見せた。
ピエールは不思議がった。
「これがなにか? …………あ、ああッ!」
大声を出して驚くピエールにコンラッドは笑顔で告げた。
「理解したみたいですね。そう。それは王の勅書です」
「そ、それは分かりました。でもここに書いてあることはなんですか!?」
「読めば分かるでしょう」
コンラッドは両手を広げた。その後ろには広大な森が広がっている。
「この森の開発権は今をもって俺に与えられたんです」
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