第12話
この世界はマナという見えない物質で満ちている。
それを纏うことで戦う術のことをマナ操作、あるいはそのままマナと言った。
マナ操作は人間が唯一魔族と戦える技術だった。
魔族は生まれつき魔力が多いか屈強な肉体を持っている。
己の魔力を具現化する術を魔法と言い、多くの魔族がそれを使える。
人間は魔力が少なく、あるいはまったくない為に魔法が使えない。
それを補う為、少ない魔力を魔方陣の形成に使い、術式によってマナを増幅、あるいは変化させる魔術を生み出したものの使える者は限られていた。
魔術は生まれつきの魔力量で使える種類や威力が決まる為、多くの者は使うことを希望しない。
だがマナ操作は別だ。
マナ自体は自然界に膨大な量が存在し、それを操る術を学べば誰でも使えるようになる。
しかしその技術もまた威力と難易度が比例するため、ほとんど者が初級、中級程度で脱落していく。
コンラッドが行ったのは鎧と体の間のマナを操作し、擬似的に打撃を貫通するという高度な技だった。
通称鎧通し。
これができる者はそう多くはない。
マナ操作においてコンラッドは世界で十指に入る実力がある。
しかし彼は生まれつきマナの操作範囲を広くすることが苦手だった。
多くの者が剣や槍、あるいは弓矢などを装備し、武器をマナで覆うことができるのに対して、コンラッドは精々ナイフ一本が限界だ。
だがコンラッドは己にできることを磨き抜いたおかげで接近戦では無類の強さを誇る。
突如現れた中年男性に仲間を倒され、別の兵士が襲い掛かった。
しかし振り下ろされた剣は拳で砕かれ、鎧の隙間を持たれるとそのまま一本背負いの要領で砦の壁まで投げ飛ばされる。
「なんだこいつ!」
今度は二人がかりで攻撃する兵士だが、攻撃は当たらず、片方はマナ操作で打撃を喰らい、もう片方はやはり投げ飛ばされた。
「訓練不足だ。基本からやり直せ」
そう告げるコンラッドは汗一つかいてない。
その背後からエリンが魔法を放った。
自らの魔力を具現化し、風に乗せた砲弾が撃たれる。
しかしコンラッドに命中するが、無傷だった。
「なっ!?」
「悪いな。俺は魔法が効きづらい体質なんだ」
驚くエリン。前方にいたはずのコンラッドは既に後方に移動していた。
コンラッドはエリンが振り返る前に手刀を放ち、一撃で気絶させるといたわる様に抱き止めた。
近くで見るとエリンはまだ十代前半のように見える。
「君みたいな子が殺すとか殺されるとかの世界にいるべきじゃない。そういうのは大人の役目だ」
バンガートとジンゴは兵士達をはねのけてエリンの元へ向かった。
気絶するエリンを見てジンゴが殴りかかる。
「エリンから離れろ!」
ジンゴの巨大な拳をコンラッドは造作もなく手の平で受け止めた。
大人と子供ほどの体格差があるにも関わらず、ジンゴは動けなくなっていた。
「うっ……。こいつ……」
「もういいだろ。今日のところは帰れよ」
コンラッドはジンゴの拳から手を離すと、気絶したエリンをバンガードに投げた。
バンガードはエリンを受け止め、問うた。
「……お前はなんだ?」
「通りすがりのおっさんだよ。いいから帰れって。それと、その子を二度と戦場に連れてくるな。いいな。えっと、でかいにゃんことわんこ」
獅子と狼の亜人であるバンガードとジンゴは顔を見合わせる。
そこへ兵士達が押し寄せてきた。多勢に無勢は明らかだった。
バンガードは決断した。
「退くぞ」
その一言で周囲の亜人や魔獣も森に向かって撤退する。
それを見て兵士達は叫んだ。
「逃げるぞ! 追え!」
「追うな」
コンラッドは兵士達の前に立ち塞がってそう告げた。
「追うなよ」
念を押すように続ける二言目を聞き、何十人もの兵士達の足を止める。まるで見えない壁でもあるかのように屈強な男達が先に進めない。
それほどコンラッドの実力はずば抜けており、兵士達はそれを肌で感じ取っていた。
そんな中、一際大きな男が前に出て来た。
男は兜を取ると驚いた顔で言った。
「先生……。なんでここに……」
そこにいたのはかつての弟子だった。
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