第11話
砦から少し離れた岩場にて魔族と魔獣が衛兵目がけて襲い掛かった。
いきなりの奇襲に衛兵達は為す術もなく倒されていく。
反撃する者もいるが、魔族は素早く避けると鋭い爪で斬りかかる。血飛沫を上げて衛兵達は全滅した。
魔族には三種類ある。
一見人間に見えるが耳が長かったり、角が生えていたり、獣の手足を持っていたりする人型。
狼や馬などの獣の肉体を持つ亜人型。
二足歩行だが人間には見えないゴブリンやオークなどの鬼型。
そして魔獣と呼ばれる知能は低いが強力な肉体を持つ者達もいた。
そちらも既存の獣に近い獣型やスライムや植物などの特殊型に分類される。
今回砦を襲ったのは亜人型の魔族達と獣型の魔獣達だ。
それを統べるのはまだ若い女のエルフだった。
切れ長の目をしたエリンは白い肌を防具で隠し、鉄の剣を持っていた。
片目を傷で失った大きな体の獅子の亜人、バンガードがエリンに尋ねる。
「早く動かないと人間達が集まってくるぞ?」
「分かっている。砦の中に入ればこちらが有利だ。入り口を探し出せ」
すると狼の亜人、ウェアウルフのジンゴが鼻を動かした。
「奴らが来たぞ!」
ジンゴが砦の上を見つめた。
そこには狐のような顔をした男がにたりと笑って立っている。
ピエールの服は貴族らしく豪華で勲章がびっしりと付けられていた。
「懲りずにまた来たのか」
「人間!」
エリンはピエールを睨み付ける。
ピエールはやはり余裕げに笑っていた。
「人の言葉を使うな。猿が。大人しく森で暮らしておけばいいものを」
「その森を貴様らが奪ったのだろうが!」
「それがどうした? 人の方が優れているのだ。それは我らが四英雄が証明したではないか。強い者が奪い。弱い者は奪われる。自然の摂理だ」
「黙れッ!」
「黙るのはお前だ」
ピエールの周囲から多くの兵が現れた。
皆が屈強で鎧を被っている。彼らはいつの間にかエリン達を囲っていた。
「さっきお前らが殺したのは安く雇ったただの町民だ。本当の兵はここにいる」
「罠かっ!」
バンガードが叫んだ。
「当たり前だ。貴様らは獣。我らは狩人なのだから。やれ!」
ピエールの指示で兵達がエリン達に襲い掛かる。
エリン達は応戦するが数の面で圧倒的に不利だった。
それでもエリンは魔法を使い、兵士を吹き飛ばす。
だがピエールは余裕だ。
「いつまで魔力が持つかな?」
「くっ!」
魔力が多い魔族だが、その量には上限がある。なくなれば魔法は使えない。
バンガードやジンゴ達が兵士をはねのけるが、やはり少しずつ押されていく。
それを見てピエールが近くの部下に言った。
「あのエルフを捕らえろ。裏では高く売れる。殺すなよ」
「はっ!」
兵士達三人が砦から下へと飛び降りていく。他の者とは違い、動きが洗練されていた。
彼らの加勢により、エリン達は更に窮地に追いやられた。
遂にエリンが仲間から引き離される。
それを狙って兵士達が次々と剣を振るった。
「くそッ!」
エリンは躱そうとするが、すぐに避けられなくなり、剣で受け止めるようなった。
だが体格差で負け、吹き飛ばされる。背中を岩で打つエリンを見てバンガードが叫んだ。
「エリン! 逃げろ!」
助けに行こうとするバンガードだが、兵士達がそれを許さない。
エリンが立ち上がると兵士の一人が蹴りを放った。それがエリンの腹に直撃する。
「ぐっ!」
悶絶するエリンを兵士達が囲み、捕獲しようとした。
その時だった。
兵士達の後ろにどこからともなく男が現れる。
髭を生やした中年男性はこれといった装備も武装もなく、ただシャツにチョッキを着ていた。
「大の大人が女の子を囲んでなにしてるんだ?」
「なんだ? 誰だ?」
兵士の一人が振り返った瞬間だった。
見えない速度で飛んできた拳が鎧を傷つけず、人体だけを殴った。
兵士は悶絶してその場で倒れ込む。
倒れた兵士を見下ろし、コンラッドは静かに告げた。
「質問を質問で返すな」
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