記憶喪失の魔王

「崖の下で倒れてたんです」


僧院に男が運ばれてきた。


「やや!こいつは…」


僧侶たちの噂によると東の魔王らしい。

東の魔王はあくどい行いをしてきたことで有名だった。


「ここはどこだ…。俺は誰だ…」


「院長、記憶喪失のようです」

「ふむ、そうか」


僧侶たちはまだ修行の身のため、唯一記憶喪失を治せるのは僧侶の長、院長だけだった。



院長は治療魔法を使わず、何事もなかったかのように魔王に接した。


「俺は誰なんだ…?何をしていた…?」

「さあ…私もあなたを見かけたことすらないのでなんとも」

「なぜ俺の頭には大きな角が付いてる…?」

「さあ…生まれつきじゃないですかね」




僧侶は院長室にいる院長に尋ねた。

「先生、あの人記憶喪失ですよね?治療魔法を施さなくて良いのですか?」


院長は後ろ手を組み、古びた眼鏡を反射させながら窓の外を眺めた。


「…ああいう悪い輩はね、記憶が戻ったところでなんの役にも立たないのだよ。悪党に戻さないのが世のため。人のためだ」

「それもそうですけど…」


僧侶と院長で話し込んでいるところに、別の僧侶が院長室に駆け込んできた。


「院長、大変です!西の魔王が手下を引き連れて我らの街に攻め込んできたようです!もう教会のすぐそこまで来ています!どうしましょう…!」

「なにっ!!」


院長は目にも止まらぬ速さで廊下を駆けて行き、部屋で寝ている魔王の肩を両手で揺さぶった。



「さあさあ、東の魔王さん!あなたは魔王なんですよ!起きてください!思い出してください!西の魔王がすぐそこまでやってきました!奴を倒せるのはあなたしかいません!さあ今こそ本来の自分を呼び覚ますのです!!」







ー完ー

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