クラスで2番目に人気のダウナー系清楚ギャルの愛が重すぎる〜オタクなギャルに包囲網を敷かれている件〜
モツゴロウ
第1話 ダウナー系ギャルはどうやらオタクだったらしい
「それ、
ある日の昼休み。
騒がしく昼食の準備をするクラスメイトたちを横目に、いつものように俺の推しであるVtuber、【来栖花梨ちゃん】の配信アーカイブを見ていると、後ろの席からそんな声が聞こえてくる。
「ちょっと、無視しないでよ」
「……え、俺?」
信じられないことだけど、どうやら後ろの席の女の子が俺に話しかけているらしい。
振り返ると、後ろの席の声の主と目が合う。
キラキラと光を反射するくらい綺麗な黒髪。
少し垂れ目がちな瞳は眠たげだが、吸い込まれそうな魅力がある。その目元にはホクロがあって大人っぽさを演出している。
色とりどりにキレイにデコられた爪はいかにも今風の女の子だ。
「あんた以外に誰がいるのさ。えっと、相良くんだっけ? ちょっと見せてよ」
少し制服を着崩したギャルっぽい見た目とは裏腹に、あまり人とはつるまない孤高の存在。
誰もが振り返るような美人だから男子からの人気はとても高い。
これまで何人もの男子が告白しては、その度に撃沈している……らしい。いわゆるクールビューティ系ギャルだ。
でも、このクラスの一番人気は彼女じゃないんだよな。ちょっと近寄りがたい雰囲気があるからだと思う。俺はこのクールさと、孤高な感じがカッコいいと思っているんだけど。
今日の席替えで鳴海さんが後ろの席になったのは知っていたけど、まさか話しかけらるとは思っていなかったからめちゃくちゃ驚いた。
「あ、うん。いいけど……いいの?」
自分でもよくわからない疑問が口に出る。自分で言うのもなんだが、俺はオタクだ。
そんな俺と話していたら、鳴海さんまで周りから変に思われるんじゃないかと心配になる。
「どういうこと? いいに決まってるじゃん」
……いいに決まっているのか。心配して損した。そういうことはあまり気にしないタイプらしい。
「い、いや、お昼ご飯はいいのかなって」
そんな俺のちょっとした自虐がバレないよう、話題を変える。
「今日はパンだから見ながら食べる」
言いながら、鳴海さんは俺に見せるようにコンビニ袋からパンを出し机に並べていく。……ん? 多くない?
「それ全部食べるの?」
机の上には色とりどりのパンたち。総計9個。カロリー爆弾だ。
「なに? 食いしん坊って言いたいわけ?」
俺の疑問に冷ややかなジト目を返してくる鳴海さん。いや、そういうわけじゃないんです、すみません。
申し訳なく思いながらパンを観察していると、あることに気づく。
「それ……花梨ちゃんのコラボ商品?」
よく見ると、並べられたパンは最近始まったコラボ商品だった。対象商品を3点買うと、ラバーキーホルダーが1つ貰えるというキャンペーン。
ちなみに俺も今日の朝、コンビニに走りました。
「そ。だから全部は食べないよ。残ったら夜食べる」
「いや、俺もさ……」
言いながらカバンの中からコンビニ袋を取り出す。使用用、観賞用、保存用が欲しかったから9個のパンを買って、3個のキーホルダーをゲットした。
「……やるじゃん」
パンパンのコンビニ袋を見た鳴海さんがニヤリと笑う。この苦労を分かち合える仲間がいるとは夢にも思わなかった。
ふふふ。俺たちは笑い合う。
普段無表情な彼女の笑顔が俺に向けられていることも忘れ、推し仲間が見つかったという純粋な嬉しさが湧き上がってくる。
会話は苦手だ。特に女の子と話したことなんて数えるほどしかない。でも――。
「そういうことなら、はい」
スマホの画面を、彼女に見えるようにしてあげる。
同じ推しを持つ彼女なら、自然に話せるかもしれない。ギャルだけど。
「ありがと。……お、メン限の配信じゃん。この回、ホント面白かったよね」
俺が見ていたのは3日前にあった雑談配信。花梨ちゃんが最近ハマっているアニメについて語るだけの回だ。
それだけのシンプルな内容だったが、真剣に語る花梨ちゃんは本当に可愛かった。その勢いのまま、おススメしてくれたアニメを徹夜で見てしまったくらいだ。
「鳴海さんもメンバーなんだ。俺、このあと『ブルドーザーマン』全話見ちゃったよ」
「私も。しかもわざわざネトフラ加入したし。あれ、めちゃくちゃ面白いよね。なんで話題にならなかったんだろ」
「ネトフラ限定配信ってのもあったんじゃない? 原作は話題だったけど、観れない人も多かったみたいだし。というか、やっぱりあの終わり方は衝撃だったな。思わず何回も見返して――」
ハッとして言葉を切る。
――またやってしまった。
俺の悪い癖だ。テンションが上がるとつい早口になってしまう。
ちらり、と鳴海さんの顔を伺うと、めちゃくちゃ真顔で俺のことを見ていた。
「オタク特有の早口ってやつ? 初めて見たかも」
「ご、ごめん」
「え、いいじゃん。私もそういうとこあるし」
いつもならここで引かれて終わり。のはすが、鳴海さんは気にしないらしい。
「そういえば、『想像のフリーラン』もめちゃくちゃ面白かったよ」
鳴海さんが出したのは、昨日の配信で話題になっていたアニメのタイトルだった。もしかしてもう見たんだろうか?
「……オススメしてたの昨日だったよね? もう見たんだ?」
「ふ、まぁね」
心なしかドヤ顔の鳴海さん。花梨ちゃんファンとしてマウントを取られた気がする。
でも、なぜかイヤな気持ちにはならなかった。
「でさ、昨日の配信だけど――」
そうして次の話題に変わる。
その会話に相槌をうっていると、少しずつ緊張が解けていく。
共通の話題があるのが大きいんだろう。二人でスマホの画面を見ながら、次々に話題が出てくる。
「おい、鳴海さんが男と喋ってるぞ」「マジか!? しかも相良と?」「……まぁあいつなら問題ないか」「そうだな」
周りが俺たちについて噂しているのが聞こえるが、そんなことが気にならないくらい楽しい。
というか、俺が出す全ての話題についてきてくれる鳴海さんもなかなかのヘビーリスナーだな。この様子だと、デビューしてすぐの、まだ人気のなかった頃の配信まで全て見ているっぽい。
こんなに熱く花梨ちゃんのことについて話せる人がいるとは思わなかった。
今まではずっと一人だった。花梨ちゃんの魅力を誰かと語り合いたいとずっと願っていたんだ。
それが、こんな形で叶うなんて。昨日の俺に言っても信じられないだろうな。
俺の中の鳴海さんの印象が、クールなダウナー系ギャルから、話しやすい友達へと変わっていく。
――キーンコーンカーンコーン。
コラボ商品のパンを食べながら、花梨ちゃんについての会話に花を咲かせていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
結局パンは食べ切ることはできなかった。夜ご飯にでもしよう。
いつもは長く感じる昼休み。だけど今日はあっという間だった。
「ありがと、相良くん。今月ギガがやばかったから助かったよ」
「ふ、俺は花梨ちゃんのために使い放題プランに入ったよ?」
さっきのお返しだ。
「なに、そのドヤ顔。ムカつくんだけど」
その言葉とは裏腹に、優しく微笑んでいる鳴海さん。
「また明日も見せて」
「もちろん。花梨ちゃんの魅力を語り尽くそう」
そうか、今月が終わるまであと一週間。それまでは俺はギガ係ってわけか。
まぁ俺も花梨ちゃんについて話せて楽しいし、断る理由もない。
ちょっとだけ寂しいけど、この関係が元に戻るだけだ。仕方ないよな。
前に向き直り、昼からの授業の準備をする。確か、次は古典だったか。あの先生の声を聞いてると眠くなるんだよなぁ。それに、食べすぎて眠いし……。
楽しかった時間は終わり、いつもの日常に戻っていく。1週間後には俺の役目も終わるだろう。
◇◇◇
――と思っていたんだけど。
「初めまして、鳴海真凛です。よろしくお願いします」
1週間後。
そこには家にやってきて、俺の母さんに挨拶をしている鳴海さんの姿が。
……あれ? どうしてこうなった?
──
オタクなギャルとのイチャイチャ?ラブコメの予定です!
愛が重いギャルをお楽しみください!
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