プロローグ③

「分かった、リロ、こうしよう。少なくとも棺分軽くするんだ。着ている鎧も引っぺがす。そして団長の肉体だけを三人で運ぶんだ。間に合うかどうか分からないがとりあえず此処から運び出す事くらいは出来るぞ」


「なっ!! 何言い出すのアッシュ君!?」 


 喚くユーリィに軽く手で合図して黙らせる。


「ほら、いくら重くても蓋くらいは三人で持ち上がる。やるぞ」


 俺はそう言ってようやく祭壇へ上がった。そうして棺の蓋に手を掛けてやると、案の定リロがそれを制した。


「やめてっ!!」


「どうして? 運べなきゃ困るだろうが。明日には埋めるんだぞ?」


「でもやめて」


「……ま、どっちにしても顔を見ておけ」


「良い……見なくて良い」


「腐るにしても埋めるにしても、最後になるだろ」


 腐るとか、埋めるとか、最後とか、わざとそう言う言葉を選んで使ってやる。


「だって……」


「ああ、大丈夫だ。三日くらいじゃ生きているのと変わらないくらい綺麗なもんさ。当然精霊の力を施してあるだろうしな。お前の知ってる姿のまま……」

「泣いちゃうから良い!」


 そう言う事じゃないと分かっていて並べ立てた言葉を、リロが鋭く制止した。そしてその勢いのままに、リロは子供の様に大声で泣き出したのだった。


「見たら……泣いちゃうからぁっ……! うっ……えぐっ……死んじゃった団長の顔なんか……見たらっ……泣いちゃっ……うあっ……うあああぁ~」 


 ルイスの死に顔を見るまでもなかったな。

 零れ落ちる涙が、棺まで落ちる前に宙へ浮かんでリロの周りを囲っていた。

 リロが涙を流す時はいつもこうだ。

 水の精霊が彼女を慰めようとしているらしい。


「リロ……リロぉぉ~……」


 そんなリロを見ていられないと言った様子でユーリィがリロの背中を優しく抱き締めた。

 時々頭を撫でてやっては一緒に涙を流す。ユーリィのそれはポタポタと、ルイスの棺の上に落ちてそれを濡らした。

 自らの涙の粒に囲まれて、ユーリィに抱き締められて、最愛の人の棺の前で慟哭するリロの姿を見て俺はしみじみこう思った。

 ようやく、ルイスの死を受け入れてくれたかと。


「はは」


 聞こえない様に笑う。

 可笑しかったんじゃない。ホッとしたんだ。

 だってそうしてくれないと、俺が到底報われないじゃないか。いつもすぐ泣くくせにてんで平気そうな顔してやがって。

 この瞬間を迎える為にここに来た筈だったのに、思わぬ回り道をしてしまったよな。


 ああ、長かったのか、短かったのか、もう分からない。

 分からないがたぶん、ここへ辿り着くまでの日々は悪い事ばかりではなかった様な気がする。


 それはきっと、あの日リロに出会ったから――。

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