カブトムシ探索隊③

 おじさんの良心も露知らず、幼い頃の私はただ「ぼーっ」と窓の外を眺めていました。


しかしその時、信じられない光景が目に飛び込んできたのです。


 山道の途中にある小さな店から、無数のカブトムシが一斉にバタバタと羽を広げて飛び立っていったのです。


私もおじさんもびっくり仰天して、言葉が出なかったほどです。


それほど迫力があったし、綺麗だったのです。


「おじさん!」


「ああ、わかっとる!」


 おじさんは素早くハンドルを切ると、カブトムシが わさわさいる店の近くに車を停めました。


急いで虫籠を開け、ひたすらにカブトムシを入れていく私。


オスとメスのバランスよく、元気な個体を厳選して丁寧に放り込みます。


あんなに楽しかったことは、未だかつてありませんでした。


 ・・・


 しばらくして、店のオヤジがひょっこり出てきたかと思うと、「あちゃあ~」というような顔で、


「いやあ、去年テレビで『カブトムシは儲かる』ってえ聞いたもんだからさ、今年張り切ってかき集めたんだけれども、全く売れなくてね。頭にきて全部逃がした途端にお客さんが来るなんて、こりゃあやられたわい」


と言って、残念そうに笑っていました。



 群馬のおじさんもさすがに可哀想だと思ったのか、


「それは悪かった。こっちも偶然見つけたもんだから、事情も知らずに慌てて飛びついちまったよ。いくらか払うから勘弁な」


と言って財布を取り出したのですが、


「いやぁ、慣れないことをしたバチが当たったんだから、良いんだよ。好きなだけ持っていってくれ」


と、店のオヤジは 背中で泣いてる男の美学 を見せつけ、去っていきました。


 ◇


 そして当然、夏休み明けの学校で話題をかっさらったのは、私の「カブトムシ30匹GET」という武勇伝でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る