解説(言い訳) ⑦
閑話で取り上げた清国の祠ができたのは1862年のことだそうです。これは後に大きく建て直され、関帝廟となりました。今でも横浜中華街の精神的支柱です。関羽さん、弁天ちゃんがズケズケと失礼しました。
その半年ちょい前にできていたのがキリスト教会の横浜天主堂。居留地には各国の宣教師がやって来ていましたが、これはフランスの神父ジロールを中心に建てられました。近代日本最初の教会であり、現在のカトリック山手教会の初代聖堂です。
ちなみにジロール神父、流ちょうに日本語を話して日本人に大ウケしていたらしいです。堂内に日本人を入れてはいけないので、鍵穴からのぞかせてあげたとか。そんな状態に神奈川奉行がキレて見物の日本人を大量に牢にぶちこんだこともあります。
開港後わずかのうちに作られた宗教施設。見知らぬ土地へ行くのにも神が共にあるのですね。そもそも見知らぬ土地へ出かけるのが宗教的情熱によるものだったりもします。そんなお話でした。
そして弁天ちゃん、いきなりアイスクリームなどにありついています。甘い物ならお店に連れて行ってもいいかと、宇賀くんが甘やかしました。
よく言われるアイス発祥は明治二年、横浜馬車道での町田房蔵による販売なのですが、それは日本人が出した店限定のこと。もっと前から居留地では異人さんたちが食べていました。
当時の氷は、天然氷の輸入です。日本でメジャーだったのはボストン氷と上海氷。船に積み込んで到着までに半減するような状態でした。そんな物を使って作るのでアイスクリームは高価なんです。
ナイフを口に突っ込んで怪我をしたというのは明治初期の面白い話を収録した本に本当に載っています。痛そう。
弁天ちゃんたちが訪れた店を経営していたリズレーさん。リチャード・リズリーと一般には言われますが、横浜関連だと何故かリズレーと呼ばれます。作中で言及したように軽業師でして、リズリー・アクトという技の創始者です。寝転がって両足をあげ、その上で子どもをヒョイヒョイ回すという荒っぽい技です。
横浜に居ついて事業を始めたのですが、サーカスも忘れられなかったのでしょうか、後に日本人軽業師・手品師を率いて世界に巡業の旅へ出てしまいました。何かに突き動かされるように、追い立てられるように生きた人物です。
横浜では西洋家具職人も育っていきます。馬具屋と箱屋を合わせて〈ばんこ屋〉というのは確証はありません(笑)。由来がはっきりしない言葉ですが、たぶんコレじゃないかと個人的に思って書きました。
明治大正期の元町にはたくさんの家具屋がありまして、技術は西洋のものとちょっと違うそうです。釘を使わないで組み合わせがちだったり、ヨーロッパの職人ならノミで削るところをカンナで調整したり。和風西洋家具ですね。
そして町でつかまえた栄作さん。地方出身で横浜に流れ込んだ山師のような男たちがたくさんいましたので、そんな一人として出演しています。
モデルがいるのですが、ちょっと名前は変えました。わずかな金を持ってやってきて、身一つで成り上がっていく。いきあたりばったり外国語も習得して、外国文化とせめぎ合いながらヨコハマを作っていった人々の片鱗が栄作です。
彼が勤めているフア商会は不破さんではなく、Farr商会。清涼飲料水製造業者で1864年に上海から進出してきました。横浜でのレモネード(=ラムネ)販売第一号だと思われます。
地元の人々だって異人さんを利用して生きようと頑張ります。
外国人を東海道から隔離する、居留地の南側、現在の
その道沿いには外国奉行の要請で茶屋十三軒が設置されたそうです。当初はただの休憩所兼監視所だったのですが……次第に酒色を提供するような店になり、入港した船から下りたばかりの船乗りを人力車夫が案内したんだとか。
山手を南に越えてすぐの所に設置された鉄砲場は、現在では大和町商店街という普通の町になっています。元町からトンネルを抜けてすぐなのですが、当時は丘越えの場所でした。着弾地点となっていた谷の奥がJR根岸線の山手駅前です。
地元民の小舟が行き交っていた川は現在すべて暗渠化されています。橋の名残がありますので、その付近で旗を振って発砲を許可したり止めたりしていたのでしょうか。今はそこに映えるおしゃれカフェができていますw
弁天ちゃん念願の初・牛肉は、屋台でゲットしました。この屋台を出していたのは高橋音吉。串焼きで金を稼ぎ、後に牛鍋屋の太田縄のれんを出店します。現在でも続く牛鍋の元祖だか本家だかな店です。
牛肉・牛乳・バター、ぜんぶ牛の匂いがするというのは私個人の感想です……。
* * *
さて幕府の命もあと二年。ホケホケと牛串食べてる場合じゃないのか?
フランス寄りに舵をきった幕府とイギリスに接近する某藩なんて事情も垣間見えつつ、国政に関して弁天ちゃんは何もしません!
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