第2話「いなくなった人魚姫」

 あの日から僕はずっと、もくずの配信を見続けていた。

 毎日リプを飛ばして、イイネして、君への愛を伝えていた。

 見てるよって、一人じゃないよって、元気づけられてる人がいるよって、自信を持ってもらいたくて応援した。


 推しには笑顔でいてもらいたいから。

 もくずのおかげで、わくわくした気持ちも、余暇の楽しみ方も、熱中する嬉しさも……もくずが全部きっかけをくれた。


 いつしか君は僕のことを覚えてくれるようになった。

 リプライやコメントに「いつも応援ありがとう」って返事をくれた。

 それが途轍もなく嬉しかった。


 一歩もくずの心に入れた気持ちになって、彼女にとっては名無しじゃないんだ、外野じゃないんだって思って。

 ファンの一人じゃなくて、名前を知ってるあの人という認識がこれ以上なく喜ばしかった。脳の一部リソースを自分に割いてくれてたことが、僕という一人の人間を見てくれているようで。


 そんな楽しい枠が続いていた。

 リスナー……汐民も徐々に増え、気づけば登録者も十万人を超えていた。

 コメントを読まれる機会は減ったけど、それよりも汐見もくずの良さを分かってくれる人が多くなったことが嬉しかった。




 僕らが出会って一年経った日、 もくずが僕に好きのきっかけをくれてから一年が経った日、ちょうどもくずの十万人記念配信がある予定だった。


 僕はその日、もくずに「ありがとう」を伝えたかった。変われたよって、好きになれたよって、これからも応援させてほしいって。

 貯めていたバイト代でスーパーチャットを投げようとしていた。それなのに、もくずはいつもの時間に現れなかった。


 まるで最初から何もなかったかのように、あとかたもなく消えてしまった。

 ネットの海の藻屑と化してしまった。

 さよなら、すら聞けずに。

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