愛しい君へ報告

 やあ、元気にやっているかい?

 もう卯月うづき四月だよ。

 今年の染井吉野サクラさんは、満開までもう少し時間がかかりそうだよ。


 昔憧れた、『桜の下の入学式』が体験できる子達が居るんだよ。

 羨ましいよね、本当に!


 ああ、先月の君からの返事は受け取り損なったので、女子高校生さんには『pudding a la modeプリンアラモード』をプレゼントしておいたよ…それも、甘み増々のチョコレート風味のやつを!

 君のから、安心してくれたまえ。



 そうだった、今日は報告があって手紙を書いているんだった。


 僕ね、4月1日付で異動になったんだ。

 エイプリルフールの悪い冗談かと思ってもみたんだけど…どうやら本当のようなんだ。


 そうなんだよ、異動なんて本当に久しぶりの事なんだ。


 で、勤務先は女子校。

 …ああ、君が頬を膨らませている姿が目に浮かぶよ。


 ん?

 勤務先がオカシイ?


 そうなんだ。

 僕は工業高等学校の数学教員の免許しか持ってないんで、女子校はお門違かどちがいも甚だしいところなんだよ。


 にも関わらず、教育委員会から送られてきた『異動通知書』に記載されていたのは、某有名女子高等学校の文言もんごん

 教える教科は『AI』…だそうだ。


 所属も、『生成系AI学科』の『特任教師』になるらしい。

 まぁ、大学時代に勉強していたことが役に立つのか、立たないのか…。


 君は、いたずらっぽく笑って言うだろうね。

「しっかり楽しんできなさい!」

 ってね。


 初出勤日は、新入生の入学式に併せるそうなので、もう少し時間の余裕は有りそう…なんだけど。

 どうやら、某有名女子高等学校の教師には、相応の服装ドレスコードが有るらしくって、ほとほと困ってしまった。

 少なくとも背広を羽織って教鞭を取らないといけないらしい…。


 背広を新調することなど、ここ何年とやっていなかったし、何と言っても、僕の服装のセンスが破滅的なのは、君が一番良く知っているところだよね。

 とりあえず、週末はデパートにでも出かけて、失礼のない程度の背広を揃えようと思っている。


 もし良かったら、君のアドバイスを貰えると嬉しいかな。


 さて、要件は語り終わったので、この手紙はここまでとするよ。

 蛇足が付いてしまったのは、ご愛嬌だと思ってくれ。


 それじゃ。



 愛しい君へ

 変わらぬ想いと共に

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る