第13話 悪いのはスラぼう

 学園都市に配置されている迷宮ダンジョンから、俺が入れる手ごろなものを選んで手続きをする。

 と言ってもアプリでどの迷宮に入るかを選んで、駅の改札についてそうなとこにスマホをかざすだけだ。


「いくか……ラビ、装填ジャンクション

「ねぇ。前から疑問だったんだけど、その装填って何? そもそもアキラのジョブって何なの?」

「召喚士」


 魔術師殺しの指輪もしてるし、多少は教えておかないとかえって面倒なことになりそうなので素直に告げる。

 アーシャも召喚士は最弱だと思っているらしく、微妙な顔で唸っていた。


「本当に召喚士なら、迷宮高専の生徒としては初じゃない?」

「そうなのか?」

「少なくとも、私が知ってる限りでは卒業して有名になった召喚士はいないわね」


 まぁ、不遇さを考えるに入試を突破できない可能性も高いので分からなくもない。


「それにアキラって召喚モンスター連れてたっけ?」


 そういや日本じゃ召喚獣をしまう方法すら分かってないんだもんな。そういう反応なのも仕方ない。

 ラビは装填しているのでスラぼうを呼び出す。

 他三体は人懐っこい方じゃないというか、じゃれるだけでダメージ入ったり死んだりする可能性があるので呼べない。

 ちなみに昔はシュンさんの手を溶かしていたスラぼうだが、トキシック・スライムに進化してからは毒の生成が自由自在なので俺以外も触れる。


「スライム……本当に召喚士なんだ……」

「ああ。装填ジャンクションってのは……装備みたいな感じか? もしくは憑依合体(※)でもいいけど」

「ああ、憑依合体ね。それなら何となくイメージできるわ」

「なんでだよ。例に出しといて何だけど、絶対分からないネタだと思ってたぞ」

「ふふん。このくらい朝飯前よ!」


 なんで誇らしげなのかは知らないが、まぁ良いか。


「ともかくそんな感じで召喚獣の特殊能力を使ったり、ステータスの一部を上乗せしてもらって戦えるようになるんだ」

「……聞いたことないんだけど」

「まぁ、色々あるんだよ」

「でもただのスライムくらいで強くなるもんなの?」

「あっ、馬鹿! スラぼうはただのスライムなんかじゃないぞ!」


 慌てて否定するも遅かった。

 進化で知能もめちゃくちゃ高いスラぼうは自分が最低ランクのスライムと間違われることを嫌がっていた。

 にょんっ、と身体を伸ばすとアーシャに取りつく。


「きゃぁっ!?」

「スラぼう、あんまりイジメないでやってくれ。俺の世界の人間は進化とか知ってる人がいないんだよ」


 俺の弁解を聞いているのかいないのか、スラぼうは身体を伸び縮みさせながらアーシャに巻き付いていく。

 おそらく遊んでるだけだろう。


 アーシャはスラぼうを捕まえようと必死に体を動かすが、手は簡単にすり抜けてしまってズラすことすらできない。

「あっ! んんっ!? 待って、そんなトコ駄目!」


 頬を赤らめて妙に艶っぽい声を出すアーシャ。


「待って、コレっ、んぅっ……! アキラの、指金じゃない、でっ、しょうねっ!?」

「そんな命令するわけないだろ!?」

「んんっ!? だ、だってぇ……!」

「スラぼう……そろそろ放してやってくれ。俺に風評被害が生まれそうだ」


 俺の命令に従ってスラぼうがアーシャから降りる。何事もなかったかのようにまんじゅう型にまとまり、ぷるぷる震えながら俺の足元に戻ってきた。


 一方のアーシャは顔を真っ赤にしながら荒い呼吸をしているというのに、酷い落差である。


「まぁ、スラぼうはスライムじゃないから、それだけ気を付けてな」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……分かった……」


 ちなみにラビはキックラビットの上位種だが、別にキックラビット扱いされても気にしない。碌に表情が動いたりしないのに、ニヤッとした雰囲気が出るので不意打ちしやすいぜ、とか思ってる気はするけど。


「さて、いくか」

「ま、待って。ちょっと服を整えてから……う、後ろ向いてて!」


 ……スラぼうよ。

 あなたはいったいアーシャさんのどこに巻き付いてたんですかね……。


 訊ねると藪蛇になりそうなので質問を吞み込んで後ろを向く。

 一層や二層くらいなら、装填が要らないどころか、命令すら必要ない。


 モンスターを見つけ次第、スラぼうが包んで1、2秒で溶かしきってしまうのだ。

 ラビであっても似たり寄ったりで、俺が気づいた時には首と胴体が泣き別れてるなんてこともある。


ある程度深くなってからが本番だな、コリャ。


「そういや、アーシャのジョブは何なんだ?」

「ヴァルキリーよ」

「おおっ、珍しいな……!」


 地球では数えるほどしかいない超レアジョブだ。


 フィジカル面の超強化と、複数属性の魔法が使えるという万能型のジョブで、コロシアムの上位にもヴァルキリーの女性がいた気がする。

 異世界でも珍しい方で、俺は二年の間に一度も出会わなかった。


「ヴァルキリーはレア過ぎてジョブの検証も済んでないのよね……はい、お待たせ」

「後でちょっとツテを当たってみるよ」


 多くの場合、ジョブごとに覚えられるスキル群が決まっている。

 そこに個人の才覚がプラスされて覚えるものと覚えないものに分かれたり、威力が増減したりするわけだ。


 トサカの職業(推定)である斥候なんかはわりと人数が多いので、スキルの効果や覚えるタイミング。必要な練習等々がかなり解明されている。


 逆にレアになればなるほど検証は進まないって訳だ。


「ツテ? 何か特別な知り合いでもいるの?」

「まぁちょっとな」


 ツテというか実際は異世界だけど。

 召喚士ギルドの人に聞いたり、デカい街にある図書館辺りを回れば地球よりは情報があるはずだ。


「今日は慣らしだから、お互いの戦闘スタイルとかどのくらい動けるかとか見ながら進むぞ」

「りょーかい」


 びしっと敬礼を決めたアーシャと、迷宮奥へと向かった。



※「シャーマンキング」武井宏之

 週刊少年ジャンプ連載の漫画作品。

 作中では自分の身体に幽霊を憑依させることで幽霊の力を引き出す「憑依合体」なる技があり、主人公はサムライの幽霊と憑依合体して刀で戦っていた。

 2001年に集英社版、2021年に講談社版がアニメ化されている。ちなみに作者は木刀の竜とファウストが好きです。

 作中の装填はどちらかというとチョコラブの自身の肉体へのオーバーソウルの方が近い。

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