第43話 プロ賢者
「ぬぅわああああ!!」
おはようございます。
「こ、こっちに来るなぁ!!」
それともこんにちは。
「って、後ろからも!!」
もしくはこんばんは?
「どうなってんだよ。今って間違いなく朝なんだよなぁ?」
もしかしたら、違う意味でおやすみなさい。
伝わってます?聞いてます?
「時空がもう1つあるからって、無限湧きとかマジで勘弁なんだけど‼」
伝わりませんよね。聞こえてませんよね。
でも、言っておきたいんです。
「上下左右関係ない方向に足のようなものが生えた何か。世界も何もないから、そんな感じになるのか?魔窟の化け物、名前とか付けてやりたいんだけど‼」
俺、やっと冒険を始めました。今、こうやって貴方が最初にやっていたことをやってます。
「カルドに魔法剣借りてて良かった…。って、腕が二本じゃ足りないんですけど‼」
…って、聞いてます?俺、貴方に言ってるんですよ。そう、貴方。つまり、——俺‼
おま、三百年前に何やったんだよ‼なーんで、何のヒントも残してないんだよ‼残ってんのはどうしようもない伝承ばっかだし‼
「境界を照らせ。風神、雷神の影をここに顕現せよ。サンダー・ハリケーン‼」
あ、いや。今のは忘れてください。ほんと、凄いと思います。自動翻訳にリップシンク、更には言語もリアルタイムで映像処理。俺、マジですげーとか思ってたんすよ?
「今のイマイチ。もしかして、ここは境界の下…?でも、なんか引っかかる…」
引っかかりまくりなんですよ。はい。なーーんで、こんな大事な話を、なーんも残さないのかなー?アレかな?もしかして…、最初の頃に殺され…
「あんなにデータ溜め込んで、ロックまでかけて。一体、どんなエロ動画を保存してたんですかねぇ!やべ。心の声と逆になった。」
魔物の姿は暗闇だからシルエットしか分からないが、今までの傾向から言って、生物を模している。そして体力という概念がない。そして、基本的には殺しに来る。
「でも、そんな筈ないよな。アレだけものを隠してたのか?それとも、それくらい凄いことだったのか。何人、生還したの分からない。どうなったのかも分からない。…四人の中にいるのは間違いない。誰だっていいし、それをどうとか言わない…。でも、何を知っているのか教えてくれよ‼」
勇者様には魔窟が最初の試練として用意されていた。
アレは恐らく、伝統的なもの。だって、本物かを見極めなければならない。
その最初の試練。チート無しで挑む、命がけの試練。でも、予想が間違っていなければ、三百年前はあんなチートを持っていなかった。
ちょっとばかし、力は在っただろうけれど。
「だから10年も掛かった?強くなるために?…だけど、死んだ」
暗闇だけど、魔法と魔法の剣のお陰で5mくらいは見える。
剣術、体術の師匠なら、力を持っていなくとも余裕でクリアできそう。
そして、そのお蔭で例の魔法具。赤黒い宝石が嵌められた奇妙なペンデュラムを見つけることが出来た。
「…これがソレか。思えば、これが何なのかも分かっていない」
しっかり観察しようと周囲の装飾品ごと持ち上げたが、既に魔窟を作った後だからか、たったそれだけでボロボロっと崩れ落ちてしまった。
そして、彼にとっての朝が来る。
「おー。無事っぽいじゃんー。何回か飛び込もうと思ったけどー」
「そうだぞ。落ち着かないカルタを見ることが出来たが、それはそれで何やらモヤモヤした」
「あ…、そか。ゴメン。俺が言いだしたのに…、心配かけたな」
どうしてユウが魔窟の試練に挑んでいたかというと、昨晩の続きから説明しなければならない。
あの時、魔法使いまくりでカルドの髪が目印になっていた。
とは言え、彼らに逃げる理由はない。だからユウは二人に離れてもらおうとした。
だけど、それは嫌だと言うカルタの考えで、カルドの魔法が壁を作った。
でも、それはカルドがカルタをこっそり覗き見するための壁。説明する気にもならないが、逃げきれる訳がない。
それで近くの廃村に隠れることになった。そして、魔窟。
因みに、帝国の軍隊が廃村に魔窟罠を仕掛けたのではない。
「確かに髪の毛の明かりは隠せるかもだけど、こんな小さな村だと直ぐに見つかるかも」
「大丈夫。ウチ、護身用に常備しとるよ‼」
月も出ない暗闇で、魔窟罠を使ったのはカルタだった。帝都の城壁から見つかった時、雷光で一瞬だけユウのシルエットが浮かび上がった。
アレが間違いなくユウだと証明できるほどではないが、蛍光髪が怪しすぎる為に追いかけていた。
ただでさえ魔物が現れる夜。廃村に魔窟罠。どうやら魔窟の中に入ってまで探そうとは思わなかったらしい。
後は、髪の毛の明かりが目立たなくなる朝まで待って。
「ユウは待ってて。ウチとお兄ぃが駆除してくるけ…」
「ちょっと待って‼…それ、俺に任せてもらえる?」
そして、二つの魔窟をどうにか片付けていたのが、冒頭部分に繋がる。
何かあったら助けに行くから、と言われていたユウだが、勇者の最初の試練では、待ちぼうけさせられたり、重装歩兵に轢かれたり。
ろくでもない経験しかないから、ここでやり直しをしようと考えた。
それこそ…
「最初からやり直したかった」
今回は除け者スタートだけど、三百年前は多分除け者じゃなかったから。
「だから、…ありがと」
「へ……。う、うん。いい…けど。それじゃ悲鳴とか、よく分からない話とか、聞いていないことにしてあげる…」
「な…?もしかして…聞こえてた?」
「…それはそうだろう。カルタは耳を澄ませていた。それに最後の方は寧ろ絶叫に近かったぞ。内容から、助けを求めているようには思えなかったが…。…そうだな。カルタがそう言うのなら、俺も聞かなかったことにしよう」
ユウは胸を撫でおろし、安堵のため息を肺に溜めた。
だけど…。
——異世界人を馬鹿にしてない?
彼女の声が聞こえた気がした。この溜め込んだ息は…、そういうんじゃない。
ゆっくりと更に空気を吸って、軽く呼吸筋を止める。
そして…
「ううん。聞こえてていいよ。もう、隠すのって意味がないから。何でも…」
打ち明ける。封印はされていた。でも、それは違う意味の封印だった。
だから、話す。何でも‼
「ほんと?聞いちゃっていいの?…え、えろどうが…って…。それ、エッチな魔法…?」
「何でもじゃなかった‼そこは無かったことにして‼法律的にも‼俺、もうすぐ十八だと思うけど、まだ十七歳だし‼本当は元の世界でどうなってるか、ガクブルしてんだから‼」
「えー、一番気になったのそこなんじゃけどー。それに十七なら別にいいじゃん?」
「いや、本気で不味い…」
「カルタ‼ユウの元の世界の法律なんだろう。それにあれだぞ。そこは流石に聞いてはならない。男には誰しも隠さなければならない秘密がある。あ‼こ、これは違うぞ。俺の部屋に何かがあるとか、そういうのじゃあない。…ぐぬぬ。そういえば占領されたと聞く。不味い…ぞ。アレが見つかってしまったら…、兄としての沽券が…」
動画とかネットとかはないけれど、こんな近くに同族がいた。
エイスペリア王国が占領された話は知らなかったけれど、心中察してしまう。
敵国に王子の部屋から、エロ系の何かが沢山出てきたら、国を取り戻せても皆の目が気になって、それこそ生きていけない。
しかも、それが愛する妹の…
「…ウチ、気付いてるし。ベッドの下とか、さっきの穴ばっかの板とか」
「い、いや。あれは…。こんなこともあろうかと、という…」
「あぁ、もういいけん。って、やっぱ無し。この質問はお兄ぃにクリティカルヒットするし。っていうか、ユウ。なかなかやるじゃん。魔窟を二つも一人で攻略しちゃうって凄いじゃん?」
「…魔窟攻略、やってみたかったから。でも、これって勇者の洗礼みたいなもんだろ。本当はあっさりクリアしたかったんだけど…」
少なくともあの四人は簡単にクリアしていた。みるみる自信をつけていく仲間を見て、どんどん自信を失って。
「ん?それは違うじゃん。さっきのは儀式用じゃなくて、本気の奴じゃん。ウチ、護身用って言ったよね」
「へ?そう…だったんだ?」
「そうだよ。言ったの覚えてないん?ウチが護身用に使うって相当じゃん?一応、何番目か忘れたけど、お姫様だし?」
うん。間違いなく言っていた。そしてお姫様とも言っていた。
何番目とかはさておき、お姫様の護身具が簡単なわけがない。
「ユウは無能の勇者。そう言われてる。でも、違うよね」
「えっと…、それは」
ここでもう一度。問いかける人物は違うし、髪の色も赤から薄紫に変わっている。
それでも、また。
——ねぇ、アナタは何者なのですか
「ねぇ。ユウって何者なの?」
脳内再生と耳からの情報が重なった。彼女にも話してあげたい。
あの時は何も言えなかった。言っても問題ないってことも知らなかった。
でも、今は。
「黒髪の勇者ユウ。俺はプロの賢者だ」
「プロの賢者?ってか賢者って。色んな魔法が使えるパーフェクト超人みたいなイメージだけど、そうは見えないし。プロ?…それってどういう意味?」
「ふむ。プロフェッショナルの略の筈だ。賢者を生業としてお金を稼ぐ。…商売に長けた賢者という意味になるが…」
そう。普通の意味ではそうなるが、賢者ともあろうお方が金の為に知恵を絞っちゃいけないだろう。
だから、ユウは慌てて首を振り、違う意味だと訂正をした。
「プロって前駆体って意味でも使うんだ。だから、プロ賢者。…いつか、賢者になる。そういう意味で使ったんだけど…、やっぱおかしい…かな」
声に出してみると、これがまた。とても恥ずかしいものだった。
俺は賢者になる男だ、って言うの恥ずかしいのだけれど。
「ううん。そんなことない…よ。ユウならなれると思う。あの日、傷だらけで戦ってた。あの時から大物になるんじゃないかって…思ってたし」
「…そうか。剣豪と空耳したということか。それで…世界を知るために東へ向かう。アイテベリアに本当にそんなものが残っているのかは分からないが」
ここまで話したのなら、やっぱり最後まで話さないと。
だって、隠す理由は何もない。おかしな人間だと思われるかもだけれど。
「俺は三百年前にこの世界で賢者になった。なれるってことは…分かってる。だから、色んなことを見てみるつもり」
「はぁ?三百年前…?でも、三百年前は」
「…えっと、帰ったんだよな。それは知ってる。信じられない話ってのは分かってるし、それがどういうことなのか、まだ分からないんだけど」
あの時、時間の進みが違うという発言があった。
でも、十年前っていうのは、ナオキが絵を見て言っただけ。
実は何の確証もない。
もしかしたら彼は嘘をついているかもしれないし、そもそも中古のスマホだから、時代の特定には向いていない。
ただし、今回の場合は違う問題が発生していた。
「うーん。勇者様のことはよく分かってないから、そういうこともあるかもじゃけど…」
「異世界の人間、それだけで俺達の考えを越えている。だが…」
勇者がループしていたとか、帰ってもまたやって来れるとか、そこで詰まっていたのではなかった。
「え…。時間についてはそんな感じなんだ…。それじゃ、一体…」
因みにこれも、リーリアに怒られる案件だ。
イスルローダの話を理解していたら気付く話だ。
「三百年前の勇者様の中に賢者様がいらっしゃったら、流石に伝承に残ってるじゃん?お兄ぃは聞いたことある?」
「…いや、ユウには悪いが知らないな。そもそも賢者なら勇者ではなく、賢者として歴史に残るだろうしな」
それはそう‼賢者って特別‼
そして、この世界の言葉は魔法硝板で、なんかうまいこと訳してたんじゃない。
幾度となく繰り返される召喚の儀のせいで、何故か日本語が世界の言葉になっていた世界。
「…え。嘘。でも」
あの白と黒の世界はユウだけのもの。それは立ち入ったことのある、イスルローダにとっての特別な存在であるグレイの証言で確定している。
グレイ以外で、同じことをイスルローダがするとは思えない。
それにユウ自身が、綺麗さっぱり消してしまったから、立ち入れたとしてもそこには何もない。
前回の生き残りならもしかしたら知っているかもしれないけれど、命を狙われているから、簡単には近づけない。
でも…
「でも、ウチは信じるよ。だって、ユウはプロ賢者なんじゃん?」
「どのみち、いつか誰かがやらねばならぬことだ。あまり気にするな」
世界に賢者は必要なのだ。
だからこの時より、ユウは自らを名乗る。
「ありがと。いつか本物の賢者になってみせるよ。今はプロ賢者だけど!」
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