二百九十八羽 ☆ リュリュエル、違反!
「かるかる♪ わっふ〜〜〜♪」
「おい! 勝手に駆け出すな!
あれは俺の獲物だって言ったろ!
ぶは!? 水の上を四足で走ってるし!?
もしかして俺にもできる?
よし行くし!」
バッチャン!
「できないし! 泳ぐしかないし!
待てこら〜〜〜!」
バチャバチャバチャ!
「やれやれ。二人して行っちゃったもな。
しょうがないから一緒に行くもな」
「ケモナったら、あいかわらず世話焼きね。
リュリュエル、わたしたちも行こうか?」
「ん〜。ボクはエンジェルバッグの穴をチクチクしてますね」
「そっか。じゃあ、わたしも残るわ。
そもそもエンジェルバッグの亜空間に入って、破れた穴から出て、その穴からバッグを出して、バッグの中の亜空間の穴を縫うってどういうことよ!?
バッグの内側から亜空間を布みたいに引っ張り出してるし!」
「とってもふわふわ不思議ってことですね!」
「都合が良すぎる次元論を言ったらきりがないから、もうどうでもいいわ!
……リュリュエル、お裁縫かなりうまいわね」
「チクチク♪
聖力の糸と針を行ったり来たり♪
ふっふふ〜!
刺繍な針仕事などもひと通りやったことがありますから!」
「ふ〜ん、そうなんだ……
ねえ、あんたってさ……
料理の隠し味はともかく、味はかなり良かったりするじゃない?
それに刺繍って貴族のたしなみよね?
社交ダンスも一流だし、衣のデザインも素敵だしさ。
そういうのって、天使予備生のときや、天使になってから会得したものじゃないでしょ?
なんていうか、その……もしかして前世の記憶、覚えてたりする?」
「……」
思わず針が止まるボクの手。
「ごめん! 天使に前世を聞くのはルール違反よね!
え〜と、ごめん! 気にしないで!
あ! そうだ! わたし、わたしはね!
とある世界の王族だったの! ふふん、お姫様よ!
あ……自分から言うのもルール違反だった……まあ、いまさらいいわ!
戦乱続きの世界で、天拳の幼姫とか聖戦の拳鬼って言われて勇者として大活躍してたんだから!」
「…………」
「そりゃもう、一騎当千の獅子奮迅だったのよ!
仲間たちとあれこれあったり、ちょっといろいろ苦労はしたけどさ。
それがなんでか天使だもんね?
ま、まあ、そのおかげであんたに……その……会えたりしたんだけど……
(やばい! か、顔が熱い! うひ〜〜〜!)。
あの、その! も、もちろんラブエルやケモナもよ!
でもあんたは特別っていうか!
……もう! わたしひとりでなに言ってるのよ!?」
「フィス……ボクたちの前世……そのうち……思い出したらでもいいですか?」
「! うん、もちろん! その気になったらでいいから!
な、泣きそうな顔しないで!
(たち? この表情は? やっぱり覚えてる? でも……これ以上は聞いちゃだめよね)
また泣いちゃってる!
ほら、なでなでしてあげるから。ね?」
「ふぁい……フィスがやさしいですぅ〜。
アーヤちゃんみたいにぺろぺろしてもいいですよ?
してもいいですか?」
「ぺろぺろなんてできるか!
するな!
よしよし、大丈夫だから。
いざとなったらわたしがあんたを守ってあげるんだから!
ね?」
「フィス……リュエルみたいです(ぽつり)」
「ん? お裁縫、終わった?
みんなのとこに行こっか!」
「はい! ボクのおてんば暴力お姫様!」
「否定できないのが悔しい!
ていうか、またボクのって!
あ、あんたはわたしのこと、ほんとはどう思って!」
「ぎゃあああああああ!」
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