スキル『カードホルダー』を覚醒した俺は死の谷で復習を誓う(仮)
morio
第1話 死の谷
強いやつが憎い…生まれ持った力ですべてが決まるこの世が憎い!
強者は弱者を意識して攻撃することで、格差が生まれる。
そして一度でも弱者になってしまうと這い上がる術はない。
強者の子も、力がなければ弱者扱い。
俺、尾道雄介もその一人だ。
少し前の話をするとしよう。
中学生を卒業する頃に一同学校に集められ、潜在的な能力の測定が行われる。
それより前だと能力測定がまともに機能しないから…らしい。
父さんは勇者、母さんは賢者の能力を持つ二人の間に生まれ、兄は賢者の能力を授かった。
そうなると必然的に弟の俺は勇者の能力を保有しているのではないかと期待されていた。
蓋を開いてみれば…俺の能力は『カードホルダー』…
勇者や賢者などの上級戦闘能力
戦士や格闘家、僧侶、魔法使いなどの一般戦闘能力
テイマー、召喚士などの特殊能力
職人、アイドルなどの非戦闘能力などの能力がある中で――
誰も聞いたこともない能力に最初は好奇の眼差しを向けられた。
だが…それも高校1年までだった。
高校に入学してから色々試してきたが…カードホルダーの能力は無能力に等しく力を発現することはなかった。
戦闘職と比べると身体能力は圧倒的に低く、職人のように手先が器用ではない、もちろんアイドルのような人を魅了する力なんてもってのほかだ。
高校2年に入ることにはその事実は知れ渡り、憐れむような視線を向けられればマシな方…
ほとんどが虫けらを見る目で俺を見てくるのだった。
家でも俺の居場所はなく、廊下で兄とすれ違う時に向けられる冷たいまなざしに胸を痛めた。
そして…父さん、母さんに呼び出された。
深刻な表情をした父が口を開く。
「雄介…お前は俺たちの子供として扱うことができなくなった」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
うつむいた母さんは…何度も何度も声にして涙を流す。
「は?どういうことだよ?」
意味が分からず、突然のことに思考が追いつかない。
「私は勇者、さよは賢者、健介は賢者だったが、雄介…お前は聞いたことのない能力で、1年経過した今も能力が使えなかった。
今の日本の法律では能力測定後、能力を発現できずに1年経過すると無能力者として扱われる。そして無能力者は能力者の家に一緒に住むことは許されない。…わかるな?」
「わかるわけないだろ!?いきなり何言ってんだよ!」
「まあ…わからなくてもいい…。もう…すでに手遅れなんだから…」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた父さん。
バゴンッ!!!
いきなり、家の扉が吹き飛んだ。
そしてぞろぞろとガスマスクをつけた集団が家に押し入ってくる。
「尾道雄介だな?」
「な…なんだよ!?いきなり人の家に入ってくるとか非常識だろ!?!?」
「問答無用だ!…連れていけ!!」
身体に棒状のものが押し付けられたと思った瞬間。
――バチンッ!!
目から火花が飛び散る。
声にならない悲鳴を上げる。
「雄介!!!!」
涙を流した母さんが俺に駆け寄ろうとするが、父さんに押さえつけられたところで…
俺の意識は消えていった。
気を失っていた俺は、過去に受けた授業を思い出していた。
20年前、富士山の大噴火を皮切りに日本全域で大災害が発生した…らしい。
この大噴火後、富士山は火山としての機能を失いそして中部地方を巻き込み地盤沈下し谷になった。
そして地形を変えるだけにとどまらず、北海道と沖縄、九州から人ならざるもの…モンスターが出現するようになった。
進撃速度は異常で…日本は近畿と関東を残して崩壊してしまった。
そして、同時刻能力が発現するものが現れた。
最初の能力者は戦士だった。
その戦士はスコップでモンスターを討伐して見せた。
そこからだ、能力者が生まれてくるようになったのは…。
そして…人の住める土地の減った日本では、人類の選択が行われるようになった。
その基準が能力者か、無能力者か…だ。
今の住める土地の減った日本に無能力者を生かしておく余裕はなく、近畿と関東を完全に分断した谷に押し込められることになった。
押し込められた無能力者が這い上がってきた事例はなく、谷は何時しか死の谷と呼ばれるようになった。
…
……
………
「ん…ううん…」
軽くしびれが残る身体を起こす。
薄暗く肌寒い場所に横たわっていたようだ。
周りを見渡す、めぼしいものはそびえたつ崖。
見上げると靄が掛かり、どこまで続いているか想像すらできなかった。
無能力の者を待つ人生の墓場
――死の谷
授業では、死の谷があるという話しかされなかった。
それも、死の谷がどうなっているのかを知る者はいなかったからだ。
ぴょこんっ!
何かが跳ねたような気がした。
薄暗い中、目を凝らすと…見えてきたのは半透明のぷるんっとした存在。
あぁ…これがモンスターか。
相対するはスライム。
人生初めて目にしたモンスターだった。
―――――――――――
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