ゲシュタルト崩壊
本条想子
第1話 新型コロナウイルス
未知のウイルスがやって来た。中国武漢発、新型コロナウイルスの最初の報告が、2019年12月31日にWHO(世界保健機関)にあった。コロナの襲来は、日本が東京2020オリンピック・パラリンピックに全力を注いでいる真只中だった。
日本では、2020年1月16日初のコロナ感染者が確認された。中国武漢への渡航歴のある中国籍の男性だった。
また、クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセス号を1月25日に香港で下船した男性のコロナ感染が、確認された。そんな中、ダイヤモンド・プリンセス号が2月3日神奈川県の大黒埠頭沖に到着した。日本は下船させずに、船内隔離を決めた。同月5日から14日間の隔離だった。乗客と乗員3711人が乗船していた。船舶所有はイギリス国籍、運航会社はアメリカであった。2月2日まで船内は、まだ感染者の情報が伝わらず、ショーが行われパーティーが普通に行われていた。つまり、感染者が増えている状況だった。みんなに知らせてからは、各々の国々へ乗客が助けを求めた。アメリカがいち早く飛行機で迎えに来て、それから各国も続いた。
中国政府は、1月24日から武漢市でコロナ肺炎患者専門の臨時病院を突貫工事で建設を始め、2月3日に終えた。武漢市は、新設の療養所と既存施設で約1万室を確保して対応した。中国はSARSを経験しているので、国内外に知られてからは対応が早かった。中国は、4月にも収束宣言をして、5月にはロックダウンを解いた。しかし、武漢の火葬場の煙は、発表の死者数を誤魔化せない。その後中国政府は、経済活動のアピールを続けている。
中国のロックダウン解除前までは、空気が綺麗だった。その間、原油先物市場では史上初の「マイナス価格」を4月20日に付けた。貯蔵施設が確保出来ない製油所からの買い手が現れず、売り注文が膨らんだためだった。
韓国は、宗教団体の感染者が多く、パニックを起こしそうだったが、MARSの経験を生かし、新型コロナの感染防止策を大幅に強化した。それは、迅速かつ広範囲にPCR検査をし、感染リスクを最小限に抑えるための治療態勢を整え、IT技術による感染経路の追跡で、感染拡大を押さえるものだった。
各国でコロナの対応が違う。無症状者を感染数に入れない国や死者数を肺炎患者としてコロナ患者としたくない国もあり、信憑性を欠く統計になっている。ここには、海外に対する評価を気にするバイアスがかかっている。
日本はというと、中国からの入国制限を2月2日から実施した国から遅れること、3月9日に開始した。ただ、早く入国制限をした国でも、PCR検査を実施して感染経路の追跡を行って、無症状患者を隔離療養させた国は、感染の広がりを押さえられたが、無症状者や軽症者追跡調査していない国は感染を広げていた。
クラスター対策だけでは、無症状者が市中で感染を広げている。PCR検査を増やすふやすアピールだけでは、信頼できない。
当初、発熱が37.5度を4日以上続かなければ、PCR検査をしてもらえなかった。その結果、コロナ患者の軽症者の治療を遅らせ、中等症から重症へと段階が進み死亡者を多く出した。やっと、5月8日に37.5度の縛りが取りはらわれた。しかし、武漢帰りなどしかPCR検査が受けられないのが続いていたが、その後緩和された。5月15日には、医師が必要と判断した場合、無症状者にもPCR検査が出来るようになったが、まだ低水準だ。そして、いつも『通知を出してもなかなか意図が伝わらない』と政府筋は言う。
WHOはPCR検査をするように全世界へ呼び掛けているが、日本政府には届かない。ノーベル賞受賞博士は、1日2万件から10万件ができる方法を首相にネット対談で訴えた。ネットの視聴者は、怒っているのか、首相に対して汚い言葉で攻撃したものの、次から次へと主催者がテロップを削除した。
東京都の不要不急の外出自粛要請以来、テレワークが取り沙汰されてきた。倫健の会社では、4月7日の緊急事態宣言(改正新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条1項の規定)後にテレワークが始まった。
「ゆい、逢えなくなるね」
と、倫健はつまらなそうに言った。
「のりたけ、リモートデートしましょうよ。リモート飲み会もいいわね」
と、結依が楽しげに言った。
しかし、政府は緊急事態宣言を、期限5月31日前の5月14日に解除した。その後、週に1回だけ出社することになった。
今日もリモートワークが終わった。勤務時間は、9時から18時だ。倫健は「抗体」とメモ用紙に書いてみた。「抗」を見詰めているとゲシュタルト崩壊が起こった。漢字は書けたのに、みるみるうちに漢字の形が壊れ、切り離されて全体を認識する能力が失われていく。
抗体
抗
亠
亠
扌 几 亠
扌 几
亢 扌 几
亢
亢
てへん 扌 なんだ、この形
なべぶた 亠 へんな、形だ
つくえ 几 こんな形だったっけ
倫健は、まるで今までの世界が崩壊していくような気がしていた。コロナ禍で、知らず知らずのうちに心が壊れているようだった。
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