第51話 人間が人間をやめる理由
「あと少しくらい粘れよ……」
ぶつくさと文句を言いながらサンダルフォンは双剣を鞘に納める。
「あの人狼、どうやら亡霊だったみたいだね」
「それは……重要なことなのか?」
「重要だよ、一度は倒されてるってことだからね」
「……なるほど」
ラジアンと入れ替わる形で出現した花弁を拾い上げた瞬間、サンダルフォンの脳裏に見知らぬ光景が過る。
「ラジアンよ、戦支度は万全か?」
「勿論です、人間どもがいつ来ようとバッチリ迎え撃てますよ」
「いつもながら良い働きぶりだな」
パンフィリカとラジアンが楽しげに会話する中、後方に控えていた痩せぎすの男は眉間に皺を寄せる。
「理解は出来ても納得がいかない、とはこのことか……」
「何か言ったか、ケリム?」
「いいえ、何も」
「……結構妥当な評価だったな」
「何の話だい?」
「多分次に戦う相手の話だよ」
苦笑いを浮かべながらサンダルフォンは懐からブローチを取り出し、遠見の魔法を発動させる。
「もう一区切りついたのかい?」
「ああ、なるべく手短に話すが──」
塔に入ってから今に至るまでの出来事を一通り話した後、サンダルフォンはユスフに訊ねる。
「ケリム、って名前に心当たりはあるか?」
「ええ、ありますよ」
「どんな奴か教えてくれ」
「分かりました」
一呼吸置いた後、ユスフは徐に語り始める。
「女王吸血鬼パンフィリカ・リーグラに忠誠を誓う元人間の吸血鬼、かつては無名の画家だった男。以上がケリム・アルティスタの大まかな人物像です」
「……ラジアンよりは弱そうだな」
「警戒すべきなのはケリムが手掛けた作品の方ですよ。使い魔として優秀かつ凶悪らしいですからね」
「らしいって……何でそこだけ断言を避けるんだよ」
「……情報の裏付けが不十分だからですよ」
「そうか」
暫し考え込んだ後、サンダルフォンはユスフに改めて訊ねる。
「とりあえず作品を警戒すれば良いんだよな?」
「ええ、それである程度の危険は回避出来る筈です」
「分かった」
光が消えたブローチを懐に入れ、サンダルフォンは溜め息を吐く。
「収穫があっただけマシか」
「他の話……例えばケリムが人間をやめて吸血鬼になった経緯とかは聞かなくて良かったのかい?」
「人間の大衆には評価されなかった自分の作品を吸血鬼は褒め称えてくれた、とかそういう感じのよくある話は聞くだけ時間の無駄だからな」
呆れ気味に言いながらサンダルフォンはわざとらしく肩を竦めた。
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