第36話 幕引きの準備は整った
「その話、本当なのかい!?」
「は、はい」
「なんてバカなことを……!」
ミカエルの肩から手を離し、イフティミアは頭を抱える。
「いくら自分の優位性を確立したいからってそこまでやるかい……!?」
「え、ええと……」
「おーい魔女サマー、オレたちにも分かるように説明してくれよー」
「っ──ああ、取り乱してすまないね」
一呼吸置いた後、イフティミアは徐に口を開く。
「……ミカエル、お前さんの血筋が人間からも吸血鬼からも特別視されてることは何度も話したね」
「はい、曾祖父様が女王吸血鬼ベアトリシアを討ったことがその理由であることも沢山聞かされました」
「吸血鬼側の事情は人間側のそれと比べたら身勝手極まりないものさ。お前さんたちのことを女王吸血鬼の座に就かれると困る奴を始末する時に使う道具としか思ってないんだからね」
「その扱いは特別視してるって言えるのか……?」
「他の人間とは待遇が違うって意味では間違っちゃいないさ」
「どんな待遇だろうとミカエルたちが吸血鬼の都合に振り回されてる事実は変わらねぇだろ」
「……ご尤もな言い分だよ」
ロンギヌスが述べた正論にイフティミアは肩を竦める。
「吸血鬼が自分の都合ばかりを優先するろくでなしであることを加味してもナルシスの所業は度が過ぎている。よりにもよってアンヘルの墓を暴こうとしてた、だなんて常軌を逸してるよ」
「まともな吸血鬼はそんなことやらねぇってか?」
「やらないのが当然なんだよ。ベアトリシアと同じ末路……恨みを買って倒される展開になることが目に見えてるんだからね」
「その展開を避けられる自信がナルシスにはあったのかもしれませんよ」
ミカエルが告げた意外な一言にイフティミアは目を丸くする。
「寧ろそうとしか思えねぇな。あの高慢ちき野郎、こっちのことを完全に舐めてやがったし」
「ご自慢の女王様を討たれたらさすがに狼狽えはするだろうけどね」
「お前さんたち……」
僅かに逡巡した後、イフティミアは笑みを浮かべる。
「どうやらあたしの心配事は杞憂で終わりそうだね」
「次で終わらせますよ。魔女様の心配も、ジェニカの悲劇も、ナルシスの企みも全部」
「……言うようになったねぇ」
どこか淋しげに笑いながらイフティミアは小さな声で呟いた。
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