第8話 双子の王女 パート8
ザッカリーが次に見た光景は巨大な斧が目の前に落ちている所であった。
「ザッカリー!!!」
グレイソンは目の前で薪を割るように簡単にザッカリーの体が半分になる姿を見て驚愕した。
「なんだ・・・あの化け物は・・・」
無残に切り裂かれた仲間達の死体の中心には、黒のサーコートを着た黒い仮面の大男が血がしたたり落ちる巨大な斧を担いでいた。その姿を見たグレイソンは震えが止まらない。王国騎士団の一員として、数々の修羅場を潜り抜けてきたグレイソンだが、これほどまでに圧倒的な力を持つ人間を見たことがなかった。
「お・・・お前は何者だ!」
「・・・」
その男はグレイソンの問い掛けを無視して巨大な斧を振り落とした。
「ガシャーン」
グレイソンは咄嗟に大剣で巨大な斧を受け止める。
「・・・」
グレイソンはかろうじて巨大な斧を大剣で受け止めたが、その衝撃で両手の腕の骨は折れてしまい、身に着けている鎧は衝撃波によってズタズタに切り裂かれる。全身から血が噴き出し、折れた両腕は垂れ下がり、絶望が全身を襲うが、グレイソンはかろうじて意識はあるようだ。
「もしかして・・・」
グレイソンは男の正体にすぐには気づくことは出来なかった。しかし、巨大な斧を振り回し戦場で死体の山を築きあげた英雄ゾルダートの噂をようやく思い出した。
「ゾルダート様でしょうか?」
本人はそう述べるが本当は口をパクパクと動かしているだけで声を発する事もできない。再び無慈悲に巨大な斧がグレイソンの頭に落ちてくる。
俺は少し離れた場所で友人のザッカリーが巨大な斧で真っ二つにされる光景を何もできずに立ち尽くして見ていた。次にグレイソンも簡単に殺されてしまった。王国騎士団でも上位に入る強さを誇るグレイソンだったが、赤子が手を捻られるように簡単に殺されてしまった。
狂人のような強さと巨大な斧を振り回す姿を見て、俺はその男の正体が元王国騎士団の総大将ゾルダートとすぐに理解した。
「ゾルダート様ですよね・・・なぜ、私たちを襲うのですか?」
ゾルダートだとすぐに理解したのは理由がある。それはゾルダートが俺の憧れの人物だからである。ゾルダートは1人で1000人の兵士を殲滅させたり、魔獣の大群を1人で撃退したりと武勇伝をあげたらいくらでも出てくる『デンメルンク王国』の英雄であり、他国からすれば狂戦士として恐れられていた。
俺がゾルダートを倒さないと王女様が殺される?いや違う、もしかしたら何か理由があって王女様を救いに来たのかもしれない。俺は自分の都合が良いように考えた。
「ゾルダート様、王女様を救いにきたのでしょうか?」
「・・・」
ゾルダートは何も答えずに巨大な斧を振り落とす。
「何をしているのだ!」
マシューがタックルをして俺を突き飛ばす。
「しっかりしろ。あいつは英雄ゾルダートだぞ。まともに相手をして敵う相手ではない」
「違います。ゾルダート様が王女様を襲うわけがないのです。だって・・・王女様はゾルダート様の姪にあたるのです」
俺はまだゾルダートが王女を襲うとは思えないのである。しかしゾルダートはゆっくりと俺の方へ近づいてくる。その時・・・
「俺が相手だ」
マシューは両手に短剣を持ち、ゾルダートを撹乱するように左右に軽快に飛びながらゾルダートに向かっていく。
「・・・」
ゾルダートは巨大な斧をブーメランのように降り投げた。マシューは俊敏な動きで簡単に強大な斧を交わすが、巨大な斧の衝撃波で腹部は三日月型にエグれて噴水のように血飛沫が吹き上がる。
「全員でかかれ!」
帆馬車を守っていた残りの近衛騎士隊がゾルダートを取り囲む。
「やめろ!お前らでは無理だ」
マシューは腹部を押さえながら大声で叫ぶが既に遅かった。騎士たちは瞬きをする間もなく強大な斧で切り裂かれていく。
「騎士団長、王女様を連れて逃げろ。俺が時間を稼ぐ」
マシューは王女様を守るという使命を果たすため、腹部から溢れ出る血を左手で押さえながらゾルダートの前に立ち塞がる。1秒でも時間を稼ぐために。
俺はマシューの覚悟を無駄にするわけにはいかない。俺はすぐに帆馬車に近寄りルシーに声を掛けた。
「ルシー!逃げるぞ」
「来るのが遅すぎるわよ」
俺に返事をしたのはルシーではなく黒いローブを着た女性だった。その女性は白い仮面を付けて顔を隠していた。そして、帆馬車の中にはルシーだと思われる女性のバラバラにされた遺体が転がっていた。頭部・四肢は切断され、腹部には大きな穴が空いていて、腹部の上に臓器が展示物のように綺麗に並べられていた。
「お前がやったのか・・・」
「可愛い女の子だったので楽しませてもらったわ」
「黙れ!」
俺は剣を構えてフードの女性に剣を突きつけた。
「王女様と一緒に私も殺すのかしら」
女性は王女様を抱えて盾にしている。しかもよく見ると王女様の頭はなく手足も綺麗に切り落とされていた。
「なんて酷いことを・・・」
俺は怒りで自分を見失いかけていた。
「私は四肢を切り落とすのが好きなのよ。ねぇ、頭と四肢を失った王女様も可愛くないかしら?」
白い仮面の裏では、愉悦の表情で笑っていると思うとさらに怒りが込み上げてくる。
「お前は人間ではない!人間ならこんな酷いことなどできないはずだ」
俺は躊躇なく剣を構え全身の力を剣に乗せて仮面の女性の心臓を目掛けて突き刺した。
「なぜ・・なの・・・」
しかし、俺が突き刺したのはフードを被った女性ではなくルシーであった。
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