第7話 双子の王女 パート7
俺たちは夜中に誰にも気づかれないように王都を出発した。国民には朝に出発すると発表されていたが、それはディスピア王女の暗殺などを防ぐための虚偽の報告であると知らされていた。それほどロード国王はディスピア王女の事を心配しているのだと俺は思った。
「今回の任務は絶対に失敗することは許されません。ディスピア王女様を無事にハイドランジア国に送り届けるための最大限の警戒態勢を敷いてください」
俺は『極』の団員に声をかける。騎士の大半が『剣士』の『称号』を授かっているがAランクは俺だけである。しかし、今回の『極』の中で『剣士』の『称号』よりも格上だと言われる『称号』を授かっている騎士が2人いる。
1人は『剣豪』ランクBの『称号』を持つグレイソンという身長2mを超える巨漢の男と、『剣豪』ランクCの『称号』を持つマシューである。マシューはグレイソンと真逆で155cmと小柄な男性であるが、その小柄な体をいかした俊敏な動きに定評がある。
『剣士』は剣術に長けた能力を与えられるが、『剣豪』は『剣士』と同様に剣術に長けた能力が与えられるが、剣術以外に身体能力もずば抜けている。グレイソンは巨体を活かした爆発的なパワーと無限の体力を持ち、マシューは小柄な体を活かした俊敏性に長けている。
マシューが絶えずディスピア王女の側で護衛をして、グレイソンが帆馬車の側を馬に乗って護衛をしている。夜中に王都を出発をして特にトラブルもなく2日後の午前中にはゴブリンの森の近くまで到着した。
「昼間の移動は盗賊の的になるので控えるように言われています。一刻でも早くハイドランジア国に到着したいところですが、この場所で交代で睡眠を取りたいと思います」
昼間に襲ってくる盗賊もいるが視界が良いので対処はしやすい。逆に明かりがほとんどない夜に襲われると対処が遅れる危険性が高い。上からの命令で昼間に睡眠をとり夜に移動するようにと指示されていた。
「騎士団長、尾行されています」
本隊から少し離れた場所で盗賊や魔獣が襲ってこないか監視をしていたザッカリーが、俺の元に駆けつけてきて報告をする。
「数は把握できていますか?」
「20名くらいだと思います」
「先手を討つか」
話を聞いていたグレイソンが声をかけてきた。
「盗賊20名で王国近衛騎士団30名を襲撃するなんてありえません。必ず別の部隊が近くにいるはずです。おとりの可能性が高いと思いますので、グレイソンさんは帆馬車から離れないでください」
最優先は王女の護衛である。グレイソンとマシューは王女の側から離すことは危険である。
「お前がいるから大丈夫だろ」
「そうです。俺はグレイソンに加勢しますので、騎士団長はマシューと共に王女の護衛に専念してください」
ザッカリーもグレイソンも俺の腕を信じてくれている。
「先手必勝も良いかもしれませんが必ず別の部隊がいるはずです。ここは気づいていないフリをして逆に奇襲をしかけましょう」
「わかったぜ」
「わかりました」
2人は了承してくれた。
俺はグレイソンとザッカリー、それと8名の騎士を近くの森に姿を隠すように指示を出す。そして、盗賊を誘き寄せる為に森の近くの草原で野営を始める。
騎士達は食事の準備をするため薪に火をおこして大きな鍋で料理を作り始めた。昼間に襲って来る盗賊は食事をして気が緩んでいる隙を襲ってくる。俺は盗賊をおびき寄せる為に見張りを立てずに全員で食事を取ることにした。食事を始めるとザッカリー達はトイレに行くフリをして次々と森の中へ消えていく。
「気を抜かないでください。必ず盗賊は襲ってきます」
「わかりました」
王国近衛騎士団に選ばれる騎士たちは、歴戦の猛者ばかりなので誰も緊張はしていない。みんなにぎやかに食事をしながら盗賊が襲ってくるのを冷静に待っている。
帆馬車の中ではルシーが王女を寝かしつけ、その側を少しも離れることなくマシューが待機している。
「本当に可愛い王女様ですわ。将来が楽しみだわ」
ルシーが王女を見て微笑んでいた。その側で無言でマシューは気配を殺してじっとしている。
遠くから土煙をあげて馬に乗った盗賊たちが現れた。数はザッカリーの言った通り20名だ。
「あれが王女を乗せた馬車だ!必ず金目の物があるはずだ。すべてを奪い尽くせ」
盗賊のリーダらしき人物が大声を張り上げる。しかし、盗賊達の側面からグレイソンが率いる部隊が現れて盗賊達に襲いかかる。
「俺たちが相手をしてやる」
グレイソンは自分の身長ほどある大剣を振りかざして馬諸共盗賊をぶった斬る。
「どこから現れたのだ!」
「お前達がいるのは気づいていたのだ」
ザッカリーも馬に乗りながら盗賊達を次々と切り裂いていく。数分もたたないうちに盗賊達を呆気なく殲滅させた。そして、盗賊のリーダらしき人物だけは生かして捕らえることに成功した。
「お前がこの盗賊のリーダーだな」
グレイソンが問い詰める。
「話が違うぞ。早く俺を助けてくれ!」
盗賊のリーダーが大声で叫ぶ。
「やっぱり他に仲間がいるのか!」
グレイソンが大声で怒鳴りつけるが、盗賊のリーダーはグレイソンの話に耳を傾けずに騒ぎ立てる。
「早く助けろ!仲間が全員殺されたではないか!」
「グレイソンさん、すぐに盗賊の仲間が現れるはずです」
「そうだな。こいつは仲間に向かって叫んでいるはずだ。気を抜くなよ」
「そんな・・・ありえない」
ザッカリーは自分の目を疑った。さっきまで一緒に戦っていた仲間達が肉片となって目の前に転がっていた。
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