第2話 双子の王女 パート2
「陛下それはできません。この場で殺せばせっかく手にした王の座を奪われるかもしれません」
『覇王』の称号を授かって生まれたのは、ロード国王だけでなく次男のケーニヒも『覇王』の称号を授かって生まれた。国王の長男が『覇王』の称号を持って生まれる可能性は90%と言われている。しかし、長男以外が『覇王』の称号を持って生まれるのは1%以下である。これは家族内の争いを避けるための神からの配慮だと言われている。
ケーニヒはその1%以下の確率で『覇王』の称号を授かって生まれたのである。ケーニヒは、デンメルンク王国始まって以来の天才と呼ばれ、剣術、魔術、知性全てを兼ね揃えた完璧な男性であった。しかも、外見も誰もが見惚れてしまう美男子で欠点など何もない。
前国王も長男のロードではなく、次男のケーニヒが王位に就くことを望んでいた。しかし、ロードが時期国王を決める決闘をケーニヒに申し込んだ時、ケーニヒは決闘を断りロードが王位に就くことに協力すると申し出た。ロードはその申し出に驚きを隠せずにいられなかったが、ケーニヒがロードが国王になった暁には、未開の地であるハイドランジア地方に新たな国を作る許可を出す事が条件であると説明すると快く承諾したのである。
その後、ロード国王は『覇王』の称号を授かって生まれた3人の国王候補と決闘をして、デンメルンク王国の国王になることができたのであった。
この世界では王位は世襲制でない。王位に就くには現国王に決闘を挑むか、現国王が引退を表明し、『覇王』の称号を持つ人物同士が王位継承権をかけて決闘をする2種類の方法がある。
「ケーニヒのことか・・・あいつが王女殺しを名目に俺の王位の座を奪いに来るというのか」
「はい。国民達や一部の貴族達は、未だにケーニヒ王こそがデンメルンク王国の国王に相応しいと思っています。もし、王女を殺したことが世間に知れ渡ると、一気に陛下の立場が悪くなり、ケーニヒ王を担ぎ出す者が現れるかもしれません」
「しかし、こいつが生きていれば世界は滅ぶのだぞ」
「そうかもしれませんが、この場で王女様を殺すのは得策ではありません」
「それではどうすれば良いのだ。国民達に『終焉妃」が生まれたと公表し、国民の理解を得て殺せば良いのか?」
「『終焉妃』の災いは古い文献の情報であり信憑性を疑われる可能性があります。国民達の理解を得ることはできないと思います」
「それならば俺はどうすれば良いのだ!」
ロード国王は拳を握りしめて地面を殴りつけた。拳からはどす黒い血が滴り落ちてくる。
「陛下、落ち着いて聞いてください。この場で殺すのがダメなのです」
「どういうことだ!」
「ディスピア王女様をケーニヒ王の元へ送るのです。辺境の地ハイドランジア国は未開の地でありますが自然が豊かなところです。ディスピア王女様は生まれながらに難病を患っている事にして、ハイドランジア国で療養するというのはいかがでしょうか?幸いにもケーニヒ王の妻であるメディスン王妃は『薬師』のAランクの称号を持ち薬学に長けた人物であります」
「それでは何の解決にもならないのではないのか」
「ハイドランジア国へ行くには帆馬車で3日ほどかかるはずです。その道中はとても危険であり、ゴブリンの森の近くを通る必要があります」
「そう言うことか・・・」
ロード国王はシンシ教皇の案を採用することにした。
「こいつの称号の事は絶対に誰にも言うなよ」
「わかりました」
『称号』の儀が行われると次の日、国王から国民に向けてメッセージが出される。もちろん、双子の王女が生まれたことは、王都グロワールの国民はみんな知っている。国民達は双子の王女がどのような『称号』を授かったのか非常に関心を寄せているので、『称号』を伏せるのは非常に困難なことである。
次の日、王宮の広場には多くの国民達が双子の王女の『称号』を知りたくて集まっていた。
「王女様はどのような『称号』を授かったのかしら?」
「第一王子が『覇王』の『レア称号』を授かってからは、第二、第三王子の『称号』は平凡だったからあまり期待はできないぜ」
「だから陛下は、ヴァルキリー王妃を正妻として強引に嫁がせたのよ。これで、平凡な『称号』の子供が生まれたら、国王としてのメンツが立たないはずよ」
「そうだな、ヴァルキリー王妃の子供なら、『レア称号』の可能性は高くなるはずだ」
王宮の広場に集まった国民達は、双子の王女がどのような『称号』を授かったのか期待で胸を弾ませている。
「第1王女のアルカナは『聖女』の称号を授かった。SSSランクの『レア称号』を授かったアルカナは、デンメルンク王国の発展に大いに貢献してくれるだろう」
誇らしげにロード国王は国民に語りかけた。
「素晴らしいですわ」
「『聖女』様の誕生だ!」
「この国はさらに発展するぞ」
国民は歓声をあげて喜ぶ。
「喜ばしい話の後に・・・残念な報告をしないといけない」
ロード国王は神妙な面持ちで国民を見つめる。
「実は第2王女のディスピアは、生まれながらに難病を患っていた。その為『称号』の儀を執り行う事はできなかった。そして、ディスピアは医師の勧めにより自然豊かなハイドランジア国での療養生活を行うことが決定した」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
王宮の広場での賑やかな雰囲気が一転して静まり返る。広場に集まった国民達は、誰も何も言わないが、病気であるということは本当なのか疑念を抱いていた。
「かわいそうに・・・」
「早く元気になってくれたら良いのね」
「ディスピア王女様・・・」
ディスピアを心配する声をあげるが、実際は『称号』なしで生まれた可能性が高いと国民達は推察している。
「ディスピアは、いつか元気になってこの地に戻ってくるだろう。それまで私はこの国の発展に力を注ぎ、5人の子供達ならびに愛する妻達と一緒にこの国のため『称号』に恥じない働きをする。みんなの協力をお願いするぞ」
国民たちは気分を変えてロード国王の言葉に賛同して歓声を上げるのだった。
「ハイドランジア国に着くまでにあの呪われた子を殺せ」
『称号』の発表が終わった後、ロード国王はある男に命令を下した。
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