オノマトペラント
藤原くう
第1話
小学生には似合わない革張りの手帳がバサバサ落ちてきて、そのことを思い出した。
おかるとのーと。
拾い上げた手帳の裏表紙に書かれた題名。その下には、いろつきくろす、と名前が書かれていた。
十六女黒栖。
行方不明になった友人の名である。
私の小学生時代といえばオカルトだった。スプーン曲げとか「ポマードポマード」とかではない。もっとコアで神秘的で、ほかの人が知らないようなこと。
五芒星、生贄、ヒトの声帯が発生可能音域を超越した呪文。それらはオカルト本の端にひっそり書かれていた黒魔術に似ていた。
「これって黒魔術なの……?」
私が聞けば、黒栖は瞳を丸くしたかと思うと唇に指をあてて、
「その言葉あんまり口にしない方がいいよ。……じゃないと目をつけられちゃう」
何に、という言葉がストンと喉の奥へ引っ込んでいく。
黒栖のツヤツヤな瞳と意味深な微笑みを見ていると、何かよくないものがビュウと息を吹きかけてくるかのように思えた。恐怖に私が固まっていたら、黒栖は笑う。
「怖がらないでよ、冗談だってば」
だが、あながち冗談でもなかったのかもしれない。一緒に遊ぶことが多かったからなのか私の危機感は確実にマヒしていた。
あるいは大学生となって色々なことを知る機会が増えたから、なのかも。
少なくとも私は、ニワトリを絞め魔法陣をサラサラ書き、カクカクの陣の上で呪文を唱える女子小学生を、黒栖の他に知らない。
キラキラ星だけが街を覆った新月の夜。学校裏の森で魔術を行使しようと言ってきた黒栖は、魔女さながらだったと記憶している。
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