第4章 大陸騒動編

第67話 治癒薬の効果

 今日は朝から予定があって皇宮に来ていた。目的地はもちろん植物園だ。


 最近はフェルナン様と一緒ではなく、護衛のアガットに植物園まで一緒に来てもらい、私が仕事をしている間はアガットに皇宮の馬車置き場で待機をしてもらっている。

 帰る時はまたアガットに植物園まで迎えにきてもらうのが、フェルナン様との約束だ。


「アガット、今日もありがとう。行ってくるわ」

「はい。リリアーヌ様、何かありましたらご遠慮なくお呼びください。お帰りの時間になりましたら、お迎えに参ります」

「ありがとう。よろしくね」


 そうしてアガットと分かれた私は、植物園の敷地に足を踏み入れた。まず向かうのは研究所だ。私がここに顔を出す日には、いつもレイモン様とルイさんが応接室で待ってくれている。


 研究所内に入って職員の方に案内された応接室に向かうと、ノックに応じてルイさんが中から扉を開けてくれた。


「リリアーヌ様、本日もご足労いただきまして、ありがとうございます」

「こちらこそお出迎えありがとうございます」


 中に入るといつも通りレイモン様がいる。しかしいつもと違って、テーブルの上にはたくさんの薬草や瓶が置かれていた。


「レイモン様、おはようございます」

「リリアーヌ、おはよう」

「なんだかたくさんの物がありますね」


 テーブルの上が気になってさっそく話を振ると、扉を閉めてレイモン様の隣に腰掛けたルイさんが、書類を手にして説明を始めてくれた。


「実はいくつものパターンで生育していた薬草が採取できまして、全部で七種類の治癒薬が完成しました。先日リリアーヌ様が発表された研究資料と合わせて騎士団に試用をお願いしたところ、その結果も届いております」

「もうそこまで進んだのですね」


 フェルナン様が試用品の治癒薬が届いたと仰っていたのは、つい数日前だ。結果が出たのは嬉しいけれど、それだけの怪我人が発生したという事実には心が痛む。


 でもこの研究は、その怪我人を救うためのものなのだから頑張らないと。


「効果はどうだったのでしょうか」


 私がそう問いかけると、レイモン様が笑みを深め、ルイさんは珍しく興奮気味に口を開いた。


「とても素晴らしいものでした……! 特に治癒効果が高かったものは、基本的には普通の薬草と同じ状況で育て、光魔法を浴びせる時だけ他の光を全て断ち切るという状況下で育てたものでした。光魔法を浴びせる時間は長すぎても短すぎてもダメなようで、ちょうど良い時間の見極めにはもうしばらく検証が必要です」


 もうそこまで状況が絞れているのね。それならば、治癒効果の高い治癒薬の増産も、近いうちに始められるかもしれない。


「研究が上手くいって嬉しいです」

「本当に良かったよ。リリアーヌのおかげだ」


 レイモン様にそう評価してもらい、私は嬉しくて頬が緩んでしまう。この国のためになることができているという事実が、凄く嬉しいのだ。


「一番効果が高い治癒薬は、試用で全て使ってしまったのでしょうか」

「いえ、まだ残っております。この研究所に十本ほど。それから薬草の形でも残っているはずです」

「そうなのですね。それならば……実際に使われるところを見ることはできないでしょうか。どのように治癒が進むのか、実際に確認してみたいです」


 普通の治癒薬は軽傷しか治らないし、光魔法よりも治りが遅いのが通常だ。それがどこまで変化しているのか、この目で見てみたい。


 その提案にルイさんはレイモン様に視線を向け、しばらく考え込んでいたレイモン様がスッと顔を上げた。


「そうだね。確かに実際に治癒されるところを見た方が、研究にも活かせると思う。救護室に運び込まれる怪我人は限定されるし、騎士団の魔物討伐に同行するのが一番かな……」


 後半は独り言のように呟いたレイモン様は、近くにあった紙にサラサラと何かを書いて、それをルイさんに手渡した。


「ルイ、これを騎士団に届けてくれるかい?」

「……かしこまりました」


 一瞬だけ躊躇ったように見えたルイさんはさっそく応接室を出ていき、そんなルイさんを見送ってから、私はレイモン様に視線を戻す。


「先ほどは何を書いていらしたのですか?」


 その問いかけに、レイモン様はニコッと笑みを浮かべて答えてくださった。


「もちろん、君の騎士に向けた伝言だよ。リリアーヌが魔物討伐に同行する上で、一番の障害だからね」


 私の騎士って……フェルナン様のことよね。なんだかそう言われると、少し照れてしまう。


 ただフェルナン様から了承を得なければいけないというのには、同意見だ。

 最近のフェルナン様は、私への過剰な心配は鳴りを潜めているとはいえ、危険な場所に赴くのはまた違うはずだから。


「私からお話ししますね」

「助かるよ。フェルナンにはそれが一番だろうからね」


 しばらくレイモン様と雑談をしながら待っていると、ルイさんと共に少し息が上がっている様子のフェルナン様がやって来た。





〜あとがき〜

本日発売の月刊プリンセス7月号に、コミカライズ4話が掲載されています!

帝国に向かった二人の新生活が始まる様子をお楽しみいただけますので、よろしくお願いいたします!

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