第24話 街にお出かけ
ある日の早朝。私は今日の予定が楽しみで、いつもよりも早くに目が覚めてしまった。窓から空を見上げてみると、雲ひとつない青空だ。
「リリアーヌ様、晴れておりますか?」
「ええ、雨は降らなそうよ。これならば本日の予定は変更にならないわね」
「はい。さっそく準備をいたしましょう」
今日はフェルナン様と、街へお出かけに行こうと約束をしていた日なのだ。数日前からとても楽しみにしていて、やっと今日になった。
「リリアーヌ様が毎日とてもお幸せそうで、私は感激でございますっ」
「エメ、それは毎日のように聞いているわ」
「毎日そう思っているのです……!」
「ふふっ、エメも毎日楽しそうで良かったわ」
私とエメがそんな話をしているうちに、クラリスがテキパキと準備を進めてくれている。
「リリアーヌ様、こちらにお越しいただけますか?」
ふわふわと柔らかい笑顔のクラリスに促され、ベッド近くにある低めの椅子に腰掛けた。ここで顔を洗ったりというような、寝起きすぐの準備を済ませるのだ。
「クラリスの笑顔には本当に癒されるわ」
「ありがとうございます。……そういえば、昨日悩まれていたドレスはどちらになさいますか?」
「そうね……大人っぽい方にしようかしら。あまりにフリルがたくさん付いていると、街では邪魔になるものね」
「かしこまりました。では青色の方でご用意いたします」
「よろしくね」
それから楽しい気分で準備を済ませ、朝食を軽めに食べてから少し休んだら、さっそく私室を出てエントランスに向かった。
ちなみに本日の朝食は出かける日ということで、それぞれ私室で軽く済ませたので、今日フェルナン様と会うのはここが初めてだ。
エントランスにはすでにフェルナン様が待機してくださっていて、お出かけだからかおしゃれに着飾ってくれている。
「フェルナン様、おはようございます」
「リリアーヌ、おはよう。なんだか楽しそうだな」
「はい。本日をとても楽しみにしておりました」
「それならば良かった。リリアーヌはやっと、ここでの暮らしにも慣れてくれたようだな」
「皆様のおかげで楽しく過ごしております」
もう大切にしていただけることに対して困惑することも少なくなり、毎日穏やかに楽しく過ごせるようになった。しかし感謝の気持ちはずっと忘れていない。
ここでの毎日が奇跡のような日々だということは、しっかりと分かっている。
「ではリリアーヌ、さっそく行こうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
フェルナン様のエスコートで馬車に乗ると、馬車はゆっくりと滑り出して軽快に公爵家の敷地を出た。まず向かう場所は貴族家のお屋敷がたくさん集まる場所にある、高級店が立ち並ぶ通りだそうだ。
「本日はまず宝飾店を巡りイヤリングを購入し、それから昼食を食べて午後は平民たちが住む場所に向かう予定だ。それで問題はないか?」
「はい。平民街の街並みも見たいというわがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
「いや、そこを見なければ街の雰囲気は掴めないからな。当然のことだ」
「ありがとうございます。そちらでは馬車を降りることはできるのでしょうか?」
難しいだろうと思いながら問いかけた質問だったけれど、フェルナン様は躊躇いなく頷いてくださった。
「降りることができるように護衛は配置してある」
「そうなのですね……本当に、ありがとうございます」
嬉しくて緩んでしまった頬を隠すように両手で押さえると、フェルナン様が優しい笑みを向けてくださった。
それから少しの間だけ馬車に揺られ、とても格式高い外観の宝飾店に到着した。私たちの馬車が着く前から、お店の前には店員さんたちが迎えに出てくれている。
「ユティスラート閣下、リリアーヌ様、本日はお越しいただきありがとうございます。さっそく中へお入りください。お二人のために特別な宝飾品をご用意してあります」
「ありがとう。では案内を頼む」
「とても楽しみだわ。ありがとう」
フェルナン様と私の返答を聞いてにっこりと綺麗に微笑んだ店員の男性は、完璧な動きで私たちを案内してくれた。
王国のアドリアン殿下より、この方の動きの方が洗練されている気がするわ……
そんなことを思わず考えてしまい、軽く頭を振る。せっかくの楽しい時間なのだから、嫌な事を思いだすのはやめましょう。
店内に入ると、ガラスケースに入ったとても美しい宝飾品が目に映った。素晴らしいものばかりだわ……私がこんなに素敵な宝飾品を身につけられるなんて。
「あちらの応接室で、様々な宝飾品を手に取っていただければと思います。店内に展示されている宝飾品で気になるものがございましたら、仰ってください」
「分かったわ。ありがとう」
それからゆっくりと応接室に向かいながら、展示されている美しい宝飾品を見て回った。店の奥にある応接室に辿り着いたところで、フェルナン様と共にソファーに腰掛ける。
応接室の中はとても華やかで、店内と同じようにガラスケースに入った宝飾品が飾られ目に楽しい空間だった。
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