住み込み★魔法少女

93音

第1話 出会い

 無味無臭の高校生活。そんな言葉が自分にはぴったりだ。俺は今年で高校2年生になったが、クラスはおろか、学校内にすら友達と言えるような仲の人はおらず、基本独りだ。別に独りが好きで、そうしているわけでは無い。現に入学した当初は積極的にクラスメイトに話しかけるようにした。

 だが、どうしても周りのノリについていけなかった。また、何を話せばいいのかもよく分からなかった。自分にはスポーツ観戦などの話題に出しやすい趣味が無い。深夜アニメやラノベの話をしたところで周りの女子からドン引きされて終わりだろう。そんなこんなで段々と自分からは話しかけられなくなっていき、気がついたらクラスから孤立していた。

 放課中は顔を伏せて寝たふりをするか、教科書を開いて予習をするふりをするのかの2択だ。ふとした時に、ラノベの主人公みたいに異世界に転生してハーレムを作れたらなぁ…などと想像している自分が嫌になる。現状を変えたいと思うが行動に移すことが出来ない。自分は一生このままなんだろう、と内心諦めに近い感情が大きいのだ。


 ホームルームの終了を告げるチャイムが鳴った。今日も席が近い人とすら、まともに会話をせず1日が終わった。そして当然のごとく1人で帰宅する。部活は入学直後、やってみたかったテニス部に入部したが途中で辞めてしまった。テニス部では練習前のアップに2人でラリーをするのだが、その相手が居なかった。いつも1人余ってコートの隅で壁当てをしていたが、結局周りからの哀れみの様な視線に耐えきれずに辞めた。自分みたいなのがスポーツをしようとすること自体、おこがましかったのだ。


 家に着くと自室に籠りゲームをする。大人気アニメのソシャゲだ。ゲームの内容自体はそこまで面白い訳では無いのだが、好きなキャラが手に入ると嬉しいから何となくやっている。今日もいつも通り作業と化しているゲームを脳死でやっていた、今日もつまらない1日が終わっていくのだなと思いながら。

 と、その時だった。


 背後でガタン、と大きな音が鳴った。天井が落ちたのかと思い、びっくりして振り返った。すると、そこには見るからに奇妙な格好をした少女が倒れていた。俺は状況を把握できず、唖然として立ち尽くすしかなかった。

 少女は「いてててて…」と言いながらゆっくりと立ち上がった。そして、唐突に喋り出した。「私はバリザ。魔法を使える女の子、まぁ俗に言う魔法少女よ。とある人から頼まれてあなたの面倒を見に来てあげたの。よろしくね」


一体何を言ってるかさっぱり分からず、俺はやはり呆然と立ち尽くすしかなかった。


「な、何言ってんの…そもそも誰…?」

「だーかーらー、私の名前はバリザ。魔法を使える女の子、まぁ俗に言う魔法少女よ。とある人から頼まれてあなたの面倒を見に来てあげたの。よろしくね」

「コピペか?そもそも魔法少女って何なんだよ?ここはアニメの世界じゃないぞ」


 その女の子の格好はプ●キュアなどで見るような典型的な魔法少女っぽい服を着ていた。


「コスプレ?」

「だから本物って言ってるでしょ!!」


ちょっとキレ気味だ。魔法少女がこんな短気でいいのだろうか。


「信じられるわけないだろ、魔法少女なんてフィクションの存在だろ」


「それが実在するのよ、現に今あなたの目の前にいるじゃない」


「俺の前にいるのは魔法少女っぽいコスプレをした得体の知れない不審者だけだ」


「不審者…って失礼な。今すぐあなたに呪いの魔法をかけてあげたいわ」


「黒魔術じゃねぇか。物騒なこと言ってないで早く出てってくれ。魔法少女だなんて信じられるわけがないだろ」


俺は得体の知れない"自称"魔法少女を何とかして追い出そうとした。彼女はそんな俺の態度に呆れたのか、俺をあしらうように言った。


「もう面倒くさいから信じなくてもいいわ。ただ、さっきも言ったように、あなたの面倒を見なくちゃいけないからしばらくの間この家に住まわせてもらうからね」


「困るよ、そんなの。突然家に現れた謎のコスプレ女を家に住まわせるわけがないだろ。そもそも俺の親に追い出されるよ」


 はぁ…これが幼馴染の女の子とかなら大いに喜ぶところなんだが、こんな得体の知れないコスプレ女を家に住まわせるわけにはいかない。とりあえず親に言って警察に通報してもらうのがベストだろう。


 と、その時「亮太〜帰ってきてたの?」という声とともに母親がノックをし、部屋の中へ入ってきた。言い忘れていたが、俺の名前は亮太だ。以後よろしく。

 母親はコスプレ女を見るとニッコリと微笑み「亮太、今日から家に住むことになったバリザちゃんよ。仲良くしてあげてね」と言い残し、部屋から出て行った。


 俺が呆然としたまま固まってしまったのは言うまでもないだろう。

そしてゆっくりとコスプレ女の方を振り返ると、コスプレ女は下を出し、得意げな顔をして言った。


「もう亮太の親には、私を受け入れるよう魔法をかけちゃった★」



俺はここで思考を放棄した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る