第38話 私たちの選んだトライアングル・ラブ 後編
「……佳那妥?」
気付いたのは卯実の方が先だったみたい。
莉羽の顔から口を離し、手を縛られたまま横になって泣いてるあたしの方にやってこようとして……。
「おねーちゃ……ん……だぁめ……」
「きゃっ?!」
いまだ快楽の渦に囚われたままの妹にスカートを掴まれ、ベッドから転げ落ちていた。
「あいたた……もう莉羽!ちょっとしっかりして……じゃなくて、佳那妥っ!大丈夫?!」
それで這うみたいにしてこっちのベッドの側に来て、布団の上に腕を乗せた格好のまままだベソをかいてるあたしの顔を見て、なんだか情けないような、ホッとしたような妙な表情をしていた。
「……ごめんね。泣かせちゃうと思わなかった」
そんで、まだえぐえぐしてるあたしの頭を撫でて、乱れた髪をそっと指で梳いて、欲望の趣くままに妹の肢体をむさぼる鬼畜な姉じゃなくて、優しくて妹のことを心配するお姉ちゃんの顔に戻って、そっと言っていた………のはいいんだけれど……。
「……ほどいてぇ」
これじゃ自分で涙も拭えない。じたばたして背中の方を見せようとしたら、ようやく思い出したのか、慌ててベッドに上がって……。
「あいたっ」
「きゃあっ!」
なんかベッドのフチにけっつまずいて、あたしの上に落ちてきた。敏感になってた嗅覚が、せいてきにこうふんしてた卯実のにおいを嗅ぎ取って何だか本能的なトコが刺激されてしまう。うう、やっぱり二人ともえっちだよぅ……。
「ごめんね、今外すから………あれ?」
そしてあたしの背中側に回って手を極めたロープを外そうとしていた卯実は、なんだか不穏な一言を発していた。あの、まさか解けないとか言わないでしょーねっ?!
「………えっと…佳那妥?」
聞きたくない聞きたくないロープ切る道具取ってくるから待っててとか聞きたくないぃぃぃっ!!
「ごめん、解けないからロープ切る道具持ってくる。ちょっと待ってて」
やっぱりーーーっ!
言い放つや否や、卯実はベッドを降りて部屋を出て行った。乱れたまんまのスカートの裾を気にしつつ、その背中を見送りながら「わー……ふくらはぎ色っぺー……」とか思ったのはつい今の今まで泣きべそかいてた自分にしてはどーなのよと思うところなんだけど、問題は別にあった。
「……ん、んん?……お姉ちゃぁん……どこ行ったのぉ………?あれ……?かなたー……」
ぎぎくぅっ?!
な、なんかもーろーとしてる莉羽がこっち見つけて、上気した顔をあたしに向けていた。身動きとれないあたしのことを……待って待って待ってなんかすんげーイヤな予感するっていうか今のはつじょーしてる莉羽と縛られたまんまのあたしを二人っきりにとかしないで卯実早く戻ってきてぇぇぇぇぇっっっ!!
「んー………じゃあ佳那妥と……しよっかぁ……ね?」
「って、こらーっ!莉羽この姿見えないのか今のあたしに襲いかかったら不同意でタイーホされるぞってこないだもこれ言ったけどていうかもしかしたら心神耗弱で不起訴の流れっ?!」
「いただきまぁす………」
「いただきますじゃねえよっうわぷっ?!」
「んー……くちゅ」
「ひんっ?!」
反応してしまった。ついさっきまで痴態を見せつけていた一方がのーこーな奴をぶちゅっとかましてきて、あたしの女の子のトコがモーレツに反応してしまった。ひぃぃぃあかんこれ気持ちいい………。
そのまま口の中を舌で蹂躙されたというかこっちのも迎撃に出たのは決してあたしの本意じゃないんだってばだって勝手に舌が!舌が!
それでしばらく水音立ててたあたしたちだったけど、段々頭がぼーっとしてきてそんで下半身が物足りなくなってきて、自分でもぞもぞ動いていたら莉羽がそれに気付いたのか顔を離して、
「……んふー。する?」
……とかって、のーみそがふっとーするよーな顔と声ですんごいことを言ってきて思わずあたしも「う、うん……」とか言ってしまうのを必死でガマンしたら。
「かなたぁ……すき」
……あかん。あたしオワタ。
もう、莉羽の片手が、すすす、と身体の横を滑るように辿って、胸の横から脇を降って腰に辿り着いて、そんでもぞもぞとスカートを引きずりあげて、当然その先にあるのはマイ下着。もちろんこんなこと予想してなかったからすんげえだっせえズロースみたいなヤツ。いやだっ、こんな下着見られて幻滅されたくないっ!……って、そういう問題か?と冷静にツッコミを入れたところで。
「ちょちょちょっ、なにしてるの二人ともっ?!」
……よーやく、お姉ちゃんが戻ってきてくれたのだった。
「おねえちゃぁん………だっこ」
「しませんっ!……いい加減正気に戻りなさいってば」
間一髪で、下着の中(しかも下半身の方。なんだってこんな日に限ってワンピースとか着てきてんだあたしは)に手をつっこまれる直前で戻って来た卯実に助けられ、ちょっと惜しかった、とか思ったり思わなかったりする内心を押し殺して、ロープを切って解放してくれた卯実を半分涙目で睨む。
「だ、だから……その、ごめんなさい。やりすぎたわ。ほら莉羽もそろそろ起きて佳那妥にあやまりなさい」
「お姉ちゃん……なんか下着がキモチワルイ」
下半身を見ながらそんなことを言われると、あたしだって自分の状態が気になってしまう。うう……早いところお手洗い借りないと……。
「もー……佳那妥、話は着替えてからにする?」
「あー、まあその、お互い言っておきたいこととか聞きたいこととかあると思うので、それが済んでからでもー……」
「ま、それもそうね。えっと、じゃあ私たちの方から……」
「まずあたしの方からっ!」
「え?」
「ふぇ?」
なんかやっと目の焦点が合った莉羽ともども、こちらをキョトンとした顔で見つめていた。だいぶいつも通りに戻ってるみたいだし、真面目な話でも出来そうな気がする。
「その……泣いてしまったのは……二人がよくなってるとこみて、自分だけ置いていかれそうに思ったから……なの」
言葉にすると随分情けないこと言ってるなあ、って思う。
二人が仲の良いところを側で見ていられればそれで十分、みたいなことをずっと言ってたのに、実際にそうなっているところを見たら、二人に放っておかれて先にどっか行ってしまうんじゃないか、ってそう思ってしまったんだ。なんでそうなったのかはよく分かんないけど……って感じのことをなんとか言葉にして二人に伝えたならば。
「あ、あの……二人とも、なんでそんなにキラキラした目でこちらを見ている……のでせう?」
卯実は口のところを両手で覆いつつ、莉羽は胸の前で両手を組んで、そいであたしに熱視線を注いでいたのだ。どーでもいいけど熱視線とか熱愛とかって文字にするとすんごいアホっぽい気がするのはあたしだけだろーか。まあそれはさておき。
「だぁってさあ……佳那妥……めちゃくちゃかわいいっ!!」
「わぁっ?!」
文字通り、あたしの胸にダイビングしてくる莉羽。避けるには距離が足りず、まともに受け止めたら押したおされてしまった。そのまま流れるようにキス……はさせるかっ。
「ちぇっ」
「どさくさに紛れてこのコなんばしょっとですか!さっきもめちゃくちゃ濃いーのかましてくれよってからにもう!」
「えー……わたし知らないよぉ」
シラを切るか、と文句を言いたいところだけど、素で覚えてない可能性があるからなあ。
とにかく身体を起こし、口を押さえてぽーっとしていた姉に妹を引き渡す。話が進まないのでしばらく押さえておいてください。意識があればいーけど。
「だからその、あたしの気持ちとしては……まあ、二人とそーゆーことになってもいいかな……って思ったというか思わなかった……わけじゃなくて、とにかくまあ、今度するならあたしのこともお忘れなく、ってことで………どうでしょう……?」
……なんか締まらないなあ、と思いつつ、正直なところを述べたんだけれど、二人の反応といえば、あんまり納得した、という風には見えなかったりする。
「つまり?佳那妥はどうしたいわけ?」
「私たちはちゃんと言葉にしたわ。だから佳那妥の気持ちも言葉で欲しいわね」
………今気付いた。なんか二人とも口の端がうずうずしてる、っていうかニヨニヨしてる。あたしが何を言いたいか分かった上で、からかっている……あーもー、女の子めんどくせー!……って、自分も女であることを忘れて髪を掻きむしった。
体勢は、二台のベッドの間にあるフローリングのスペース。二人はさっきまでえっちなことしてたベッドに背を預け、あたしは自分が縛られていたベッドに背を預けてる。
三人の間にある距離は割と激少。ちょっと手を伸ばせば、抱き締めるくらいは簡単に出来そう。そんな距離感でこんなこと言っていいのかな。とんでもないことになったりしないかな。
……でもいいや。そうなったらなったで、それはあたしの望んだことだ。問題ない。
深呼吸をする。なんか、こんなことを自分が口にすることになるとは思わなかった。それも、男の子が相手じゃなくて女の子を相手にして。しかも二人を同時に。更にその上、その二人はいろいろあって好き合ってる実の姉妹とくる。いいのかなあ、って。
でもまあ、いいか。今さらだ、いろいろと。
「…………」
「……ごく」
何かを待ちわびている二人に向かって、あたしは自分の言葉を告げる。
「あたしは、卯実と莉羽が好き。二人が愛しあってるところを見て、そんな二人があたしを求めてくれるって知って、二人と一緒にいたいと思った。二人がお互いを好きなのと同じくらい、あたしは二人を好き。あたしを二人と一緒に連れて行って……くれる?」
もちろん、あたしが出来るなら二人を連れて行きたいよ。二人じゃ行けなかった場所に。引きこもり候補生のコミュ障のオタ女のあたしにそんなこと出来るかは分かんないけどね、ってはにかみながら伝えたら。
「……佳那妥ぁ!」
「死ぬほど愛してるっ!!」
「きゃーっ?!」
……それが二人の何の琴線に触れたのか、爆発したみたいに抱きつかれた。二人同時に。
「そういうところよ!私たちが大好きになったのは!」
「え?」
「佳那妥佳那妥佳那妥ぁっ!大好き愛してるもう誰にも渡さない、一生……だからね!一生わたしたちといてね!約束だからねっ!!」
「えええっ?!」
な、なんかえらい約束をされたよーな気がするんですけど。
でも、二人に抱きつかれながらも不思議とえっちな気分にはならず、なんだか欠けていたものが埋められていくような……何度オ……しても得られなかったものが、胸の中に満ち足りていくような、そんな不思議な気持ちになっていた。
そして空気を読んだのか二人とも、それ以上深く繋がってきたりしよーともせず、あたしの身体の上でじーっとして、三人でお互いの生み出す温もりを楽しんでいたような気がする。
でもいつまでもそうしている場合じゃない。あたしはむくりと起き上がり……二人の身体も一緒にだったから力が必要だったけど……三人が正三角形の位置になるよーに座り直し、聞いていなかったことを尋ねる。割と重要なこと。
「……それで、二人が言っておきたいこととか、聞いておかないといけないことって、あるの?さっき卯実が話しかけていたけれど……」
「ああ……うーん、今はいいかな。欲しい答えは全部聞けたから」
なにそれ。って胡乱げな目を向ける。
「あら。それが恋人に向かってとる態度?」
でもそれはお気に召さなかったみたいで、あたしにとっては新鮮で、なんだか聞いただけでドキドキする立場を主張してくれる。
「こっ……こいびと……?あた、あたしと卯実が……?」
「違うわよあほ佳那妥ぁっ!お姉ちゃんと、わたしが!恋人なの!佳那妥のっ!」
「そうね、で、私の恋人は莉羽と佳那妥」
「言うまでもなく、わたしの恋人はお姉ちゃんと佳那妥」
オッケー?と姉妹が仲良く小首を傾げ、確認をとってくる。なんだかめんどくせーけど、それもまた喜びだと思う。
何にしても、ね。
どうしてこんなことになったのかは相変わらず分かんないけれど、こうしてあたしたちは、恋人関係になった、と言えるのだ。正当な、三角形の、ね。
「かなたぁ、かっこつけてるけど濡れたぱんつははきかえよーね?」
「それとも続きしてく?恋人になった記念に」
「初日からそんなことになるよーなふしだらな娘に育てられた覚えはありませんっ!」
……さすがに下着だけは買い置きのを一枚頂きましたけどもっ。だってどっちが自分の洗濯済み下着をあたしにはかせるかでけんか始めよーとするんだもん。
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