転生して変身できないヒーローの俺と異世界転移して力を失った床上手な聖女が出会い、なんとなくやっていく物語

朝倉牧師

第一話 隠し部屋での突然の出会い


 冒険者……。それは危険ではあるが、一獲千金を狙える職業。


 魔物を倒しながら町から街へと移動し、時にダンジョンと呼ばれる迷宮に潜ってそこに発生する財宝を手にする。


 俺の様な田舎農家の三男あたりが、家計を助ける為に薬草や木の実なんかを採集して冒険者ギルドに売ったりするのが始まりで、そのままいつの間にか専業の冒険者になっちまったってパターンが非常に多い。


 俺の名は紅井あかい頼火らいか。元変身ヒーローで今は割と凄腕の冒険者をやっている。俺はこの世界だと元料理人でもあるんだけどさ……。ホント、人生いろいろだぜ。


【この世界でのマスターの名前はライカです。偶然の一致ではありませんし】


 この頭に響く声を発しているのは、俺と共にこの世界に転生してきた変身サポート機能付きのブレスだ。


「その辺りは転生してくる時に女神アプリコット様がいい感じに調整してくれたからな。チートは殆ど無しだけど、記憶と壊れたブレスがオマケに付いて来た位かな?」


 元々は変身アイテムのサポートシステムなんだけど、ブレスや変身システムが魂とリンクしているらしくて、何故か俺と一緒にこの世界に転生して来たみたいなんだよね。


 転生時にブレスが壊れてるから変身能力は失われたけど、このブレスと変身バックルがあれば各能力五割増しって特典があるんだよな~。それ以外にもいろんな機能があるけど。


 装備していても俺以外には見えないし触ることもできない。……外す事もできないんだけどさ。それと、こいつとの念話中は高速思考モードに入っているから、結構長く話しているようでも現実世界では一瞬だ。


「そんな事より、そろそろが見つからないか?」


【……探索システムも生きていますが、これを使うのもチートでは?】


 ブレスに内蔵されていた機能の中には、今も使える物が幾つかある。


 今日潜っているような遺跡型ダンジョンには色々と隠し扉があったりするんだけど、このブレスの機能で調べれば殆ど見つからない隠し扉が見付け放題って訳だ。


 その扉の先には強力な魔物がいる事も多いけど、それ以上に価値のあるお宝が眠っているんだよね。


 俺がソロで冒険者をしているのはこの隠し部屋とかの稼ぎがデカいからで、他人と組むメリットが無いからなんだよな。


 器用貧乏じゃないけど、ブレスのサポートのおかげで割と何でもできるし。


【本当に器用貧乏ですよね。ほとんど初級か中級程度の能力しかありませんが】


 いいんだよ!! 俺は本当の意味じゃ一流冒険者を目指してる訳じゃないからな。


 もう五年位冒険者をして、それまでに稼いだ金で料理店を出すのがとりあえずの目標だ。


 自分で言うのも何だが俺の料理の腕は超一流だし、その時は新しい名店がこの街に生まれるぞ。ん? この反応は……、当たりか?


【発見しました。この先の岩壁です!!】


 よっしゃぁぁぁぁぁっ!!


 これで今日も稼ぎは十分だ!! ここがかなり浅めな地下五階とはいえ、隠し部屋にはそれなりのお宝が眠ってるからな!!


「ここだな……。スイッチはこの石と、ここの溝か」


 隠し扉の開け方にも色々パターンがあるんだよね。


 今回の様に壁からなんとなく出っ張っている石を溝に沿って並べ替えたり、決められた石を押し込んだりと様々だったりする。


 失敗してもやり直せるけど、制限時間があるのがキツイ……。制限時間を過ぎると、成功しても反応しなくなるんだ。そしていつの間にか消えてるんだよね。


 よし!! 今回は時間以内に解除できたぜ。


「扉を潜ってと……。ついて来ている奴はいないな」


 隠し部屋に通じる扉は一分くらいで閉じる。だからパーティで攻略する時には結構急いで行動しなければいけない。


 だけどその僅かな時間を利用して、横入りしてくるマナーのなってない奴もいるんだよな。


 その場合はだいたい実力でご退場いただくんだけど、向こうの交渉内容次第じゃ一緒に隠し部屋を探索してもいいんだけどね。


 たまに俺だとわかってて入ってくる知り合いもいるしな。そいつらは今日このダンジョンで見かけないから、別のダンジョンにでも行ってるんだろう。


「扉が閉じたから後はお宝を探して、隠し部屋から脱出するだけだね。この隠し部屋内部には一匹だけ魔物もいるけどさ」


 隠し扉の先にいる魔物は強い。


 ここは地下五階だけど、最低でも地下十五階くらいに出る魔物が隠し部屋のボスとして何処かに配置してある。


 戦闘に自信の無い冒険者はその魔物を避けながらお宝をさがし、俺みたいな器用貧乏な万能タイプは状況次第で討伐もしたりするんだよね。


 地下十五階に出る魔物って言ってもそこまで強くないし。……このダンジョンは地下五十階まであるからさ。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!! なんなんですかぁっ!! どうして魔法が発動しないんですか? ちょっと!! 女神プリムローズ様の力の有効範囲外って、聞いて無いんですけどっ!!」


「ぶごっ、ぶごぉっ……」


 ……隠し部屋の中で、誰かの声がする? そんな事、あり得るのか?


 一緒に聞こえてくる鳴き声は、オーク系の魔物の物だよな? オークこいつがいるのは問題ないんだよ……。


 隠し部屋の入り口は絶対に一ヶ所で、俺の気配察知を逃れてすり抜けるなんて相手が忍者や暗殺者ですらありえない。


【私のセンサーにも反応がありませんでした。すり抜けなんてありえません】


 だよな……。


 誰もいる訳の無い状況で、誰かがいるって状況なんて軽くホラーだぜ。声からして女性冒険者っぽいけど。この西のダンジョンでは聞き覚えは無いぞ。


「いきなりこんな場所に飛ばされちゃうし、ホント、今日はツイてないわ!! だ~か~ら~、なんで魔法が使えないんですか!!」


 なんか、話の内容を聞いてる限り、この世界の人間じゃないっぽい?


 俺が異世界転生者だからなんとなく分かるけど、この感じは別世界から飛ばされてきたパターンなのか?


 それだと隠し部屋にいた事も辻褄が合うし、あの独り言っぽい声の内容も理解できる。


 しかし、異世界転移者か……。あまり関わり合いになりたくないパターンかな? 面倒事が山ほど増えそうだしさ。


【マスター。困っている人に手を差し出すのがヒーローでは?】


 冗談さ。


 ここで見捨てるほど俺は腐っちゃいないよ。もう変身できないヒーローでもな。


「慈愛と豊穣の女神プリムローズ様、目の前の魔物を浄化する聖なる雷を……。浄化の雷ライトニング・クリア!! ……ええぇっ!! またこの場所は女神プリムローズ様の力の有効範囲外ですって、どうしてですか!! ちょっと!! あなたもっ、ち・か・づ・か・な・い・で・っ……、下さいっ!!」


「ぶぎゃぁぁぁぁ!!」


 今ものすんごい音がしたぞ。


 雷とかじゃなくて、多分棍棒か何かでぶん殴った打撃音だけどね。


「向こうから聞こえてきたよな? 様子を……」


 気配を消して壁伝いに移動し、音がした場所まで……って。誰だあれ? あんな美人の冒険者の記憶なんてないぞ。


 見た感じどこかの教会に所属するプリーストか何か? 着ている服が高そうで凄い豪華な装飾だから位の高い人なのかな?


 って、見てないで助けないといけないか。


「すいません。邪魔でなければ助太刀しますが」


「ええっ!! お……男の人っ!! ……じゅるっ」


「はい。確かに男ですけどって……」


 こうして近くで見たら本当にすっごい美人だ。


 でもちょっとだけ気になる事がある。


 最後、怪しい動きがあった気がするけど……。


 って、そんな事より目の前の魔物だ!!


「この魔物。硬くて強いです!!」


「こいつは地下十五階に出る、重装甲型のオークだからな。……その分、動きは遅くて戦いやすいけど」


 その重装甲型のオーク。思いっきり鎧がへっこんでるんだけど、その手に持つ杖でぶん殴った訳?


 かなりダメージが入ってるのか、いつもよりさらに動きが悪いんだけどさ。


 これだけ動きが遅いんだったら、無防備な首筋を狙える!!


「これで……」


「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は手にしていた槍で、オークの首筋を斬り割いた。


 ダンジョンに出て来る魔物は、倒すと魔力の粒子に分解されて消える。こいつらは正確には魔素の固まりらしくて、地上に出る魔物ともまた違うらしいけどね。


 消えるから素材なんかの剥ぎ取りはできないけど、こうして戦利品のドロップアイテムが出てくる。これは絶対出るとは限らないけど。


「今回のドロップアイテムは、オークの魔石と猛毒の爪。お、珍しく宝石も落としたぞ!!」


 これで今日は大勝利!!


 隠し部屋に出る魔物は一匹だけだからこの後は色々部屋を回って宝を探さないといけないんだけど、これで他に何も見つからなくても一日の稼ぎとしては十分だぜ。


 って、彼女を放置はよくないよな。


「えっと、ちょっと話し合ったりする?」


「……」


「言葉は通じてるよね? もしかしてどこか怪我をしてるの?」


「だだだっ、大丈夫です!! 私はけがされていませんし、怪我もしてませんので」


 ん~。かなりの美人さんなんだけど妙に顔が赤いし、なんだか妙に反応が変なんだよね。


 やっぱりいきなり知らない世界に飛ばされたから緊張してるというか、色々と混乱してるのかな?


「……うん。あのっ!! こんな事をいきなり打ち明けられても困ると思いますし、信じて貰えないかもしれませんが……。私は別の世界の人間で、ついさっきこの世界に飛ばされてきたんですっ!!」


 やっぱりそうか……。


 って、隠し部屋の構造とかさっき聞こえて来た内容とか色々考えると、それ以外にはないよね。


 それはそれとして、こんな美人にこんな距離で真正面から見つめられるとかなりクルな。


 心臓の動機を抑えて平静を装うのがめっちゃ大変だよ。


「やはり……、信じては貰えませんか」


「いえ、信じますよ。その信じて貰えないかもしれませんが、実は俺も異世界転生者でして。おそらく別の世界からだと思いますが、状況は似ていますんで何とか」


「……あの。無理に話を合わせようしてません?」


「俺の場合、この世界に来る時に女神様に色々聞いてるんですけど、その辺りの転生ボーナスとか説明は無かったんです?」


「無かったんですよ。それどころか、この状況の説明すら一切ありませんでした。今日は教会で式典がある予定でしたので、着替えて準備を終えた後で祈りを捧げていましたら、突然こんな場所に……」


 そりゃキツイな……。


 って、それ、おかしくないか?


 この世界の言語。俺は元居た世界の言葉とかも喋れるけど、この世界とは当然その辺りは全然違ってた。


 なのになぜ彼女は俺と普通に会話が出来てるんだ?


「……こうして普通に話せる事に、何か心当たりとかあります?」


「それは元々持っていた私の力ですね。万人と会話し、苦難を解決する聖女の力なんですよ」


 聖女!!


 普通のシスター系の冒険者じゃなくて、まさかの聖女様!!


 そりゃこんな高そうな服を着てるし、豪華な装備してるよ……って、聖女とか関係なく、女性を立たせたまま話し続けるとかないよな。


 もう魔物に気を付けなくていいし、隠し部屋は一度入ってしまえば時間的な制限もない。二時間後に何処か他の場所に隠し部屋が出現するだけだしな。


 とりあえず特殊インベントリからテーブルとイス。そして軽い飲み物とかを準備してみた。


 椅子の上にはやわらかいクッションを置いてあるから、座ってても痛くない筈。いつもは俺が使ってるんだけどな……。


「とりあえず座って話しませんか?」


「これ、何処から用意したんですか?」


「あ~、そのセリフだけで別の世界人だって分かります。ここですとね、これが割と普通の事なんですよ」


 この世界には時間停止型の性能を持つマジックバッグが普及している。


 それがもう馬鹿馬鹿しい位に普及しまくっているんだ。おかげで食料の保存技術とか輸送技術の一部がほとんど発展していない位に……。その代わり人が移動する馬車なんかは凄いけどね。


 普及し始めたのもかなり昔なんで防犯対策とかも完璧だし、子供にすら説明が必要ない位なんだ。


 俺は自前の特殊インベントリを使う事が多いけどさ。 


 名前も知らないこの人には、まずそこから説明しなきゃいけないだろうね……。


 っと、いっけね。俺も彼女に名前を名乗ってなかった。


 この人があまりに美人だから、俺も相当緊張してるんだろうな……。



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