第2話

 俺は狼頭、体は人間の化け物だ。体も大きく力も強い為、まわりの妖怪からも恐れられている。どうしてこんな形の妖怪になったかなんて、わかりゃしない。

 だが、俺を祀る奴もいて、俺は祠持ちの妖怪のようなちょっとした神のような感じのものだった。

 それが、ちょっと寝ている間に、俺の祠に地蔵が同居していやがったのだ。まあ、粗末な祠だったことは認める。だが、リホームとやらを勝手にして、勝手に地蔵を住ませるなんぞひどくないか?俺の祠だぞ。小さくとも一国一城の主が、いつの間にか国を乗っ取られたら怒るだろう?なあ?

 地蔵がにっこり頷くのを横目で見ながら、俺はお供えの饅頭を手に取った。俺の祠は、地蔵堂と名を変え、立派なお堂になっている。年寄りの参拝用にベンチが置かれ、俺は地蔵相手におしゃべりだ。ただにこやかに頷くばかりだが、気のいい地蔵だ。こういう状況でさえなければ、ずっとシェアハウスってのをしても構わないと思う。

 あの日も俺はベンチで地蔵としゃべっていた。そろそろ日差しも強くなってきたよな。ひまわりの蕾も膨らんできたし、これからは水羊羹の季節だよなとか、のどかにひなたぼっこしていたのだ。

 そこへ、あの親父がトラックをぶつけやがったのだ。この地蔵堂に。前の道の拡張工事の為に、工事車両が行ったり来たりしていたが、そいつが突っ込んでくるとは思いもしなかった。

 後々聞いたところでは、飛び出してきた子供を避けた結果、地蔵堂につっこんだので、まあ、仕方ないと言えば仕方ない。今なら大いに許してやる。絶対に許す。祟ったりなんか絶対にしない。そんな状況だったのだ。

だが。

 空を見上げて、俺は大きなため息をついた。

 今思うと、なんであんなこと言っちまったのか。つくづく、自分の短気さに腹が立つ。

こんなに祟るのが難しいとは。

「で、何かこれを解く方法を知らないか?」

地蔵に相談したかったのはこういう事だ。

三代祟らずに済む方法は無いのかと。

 あの後、頭の冷えた俺は、ちょっちょっと、適当にトラック親子と孫を転ばせて、さあ祟ったぞ、で済ませてやろうと思ったのだ。

 だが、孫どころか、娘が大問題だった。

 大木なご美。

 32歳。

 特徴 ブサイク。

 出戻りか思ったが、どうやらそうでは無いらしい。結婚するどころか相手すらいない。末摘花さえ光源氏とやっちゃったっていうのに、こいつは未だ処女。

 冗談じゃない。俺はクラクラした。親は何をしている?親戚は?近所は?

 たしかにこいつはブスだ。しかし、人間だろう?女だろう?昔はブスでも結婚できたのに。いや、醜女の深情けって、諺だってあったじゃ無いか。

 この時代は、ブサイクは子供を作れないのか?なんという不公平な時代だ。

 地蔵の困ったような笑みに、俺は構わないと手を振った。祟った側が、祟りを解く方法を聞く事自体、間違っている。

「でも兄貴、まだ娘がいてよかったじゃないっすか。親父さんに子供がいなかったら一巻の終わりっすよ」

いつのまにか現れたジャンプ傘の付喪神。傘お化けといっても、完全な現代っ子。普段から人間形で、短い茶髪に、本人曰く「女子ウケしそうな可愛い柴犬風」な面構え。女子大好きな軽い奴だ。いじめられていたコイツを俺が拾ってやったというのに、その恩義もなんもあったもんじゃ無い。兄貴のピンチに、いけてしゃあしゃあと最後の饅頭に手をのばしやがる。

「それは地蔵のだ」と、俺はその手をピシリと叩き、立ち上がった。

「ええ?兄貴、無策ですよ?地蔵の兄貴に何かいい手を聞くんじゃなかったんすか?」

ジャンプが名残惜しそうに饅頭を横目で見ながら言う。

「やるしかないだろう」

俺はジャンプの頭を小突いた。

「婚活って奴をよ」

「えええ〜。大丈夫なんすか?」

頭をさすりながら、不安げに聞くジャンプ。

そんなもん、大丈夫な訳ないだろ!

「兄貴がいなくなったら、俺どうしたらいいんすか?」

「縁起悪い事いうなっ!」

ジャンプの頭に拳骨を喰らわす。

三代祟れないって?

そんなこと、想像するだけで、背筋が寒くなる。



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