どうしても見せたいすごいひみつ

えことね

どうしても見せたいすごいひみつ

ゴーン、ゴーン……

 鐘の音がゆったりとひびく早朝、スルクの大通りを、三つの小さな人影が走り抜けていく。白い霧を切って先頭をバタバタと走っているのは、三人のなかでは一番背の高いチャリスだ。彼は、ほかの二人を突き放して一気に加速すると、時計塔を抜けた先で急ブレーキをかけた。そして、横にも大きいその体を揺らしながら、道沿いの小さな屋台に近づくと、中をのぞきこんだ。

 「おばさあん、シナモンメイプルロールちょうだあい!」

 チャリスのあとを追いかけて屋台の前へとびこんできた少女―レーメイは、そのあまりにのんきな声を聞いて転びそうになった。

 「チャリス!今はおやつの時間じゃないでしょう!」

 きょとん、としているチャリスの前に奥から初老の女の人が出てきて、申し訳なさそうに頭を下げた。

 「ごめんなさいね、ロールの準備はまだなのよ」

 ゴーン、とまた鐘がなりひびいた。建物と建物のあいだから、朝日が通りを照らしていく。屋台の女の人はもういちど頭を下げると、ふきんで両手をぬぐいながらまた店の奥へ引っこんだ。

 こちらを見て肩を落とすチャリスに、レーメイはげんなりと顔をしかめた。

 「ねえ、まさかこれが『どうしても見せたいすごいひみつ』だったわけ?」

 チャリスはいよいよ体を縮めてうなだれた。

 「だって、きょうはお祭りだから、シナモンロールが朝から食べられるって聞いたのに」

 「聞いたのにって、誰から聞いたの?」

 そのとたん、チャリスははっと顔を上げて通りを見まわした。

 「スイは?どこにいったの?」

 レーメイも、あ、と声を上げてふり返った。明るくなって人は増えたが、さっきまで跳ねるように走っていたスイの姿はなかった。

 「おかしいなあ、ぼく、スイから聞いたんだ」

頭をかいて困っているチャリスを、レーメイはあっけにとられて見つめた。

 そして、また苦笑いを浮かべるとつぶやいた。

 「そーゆーことね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうしても見せたいすごいひみつ えことね @ekotone

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ