第14話 俺が授業参観に!?

 最近、マンションの渡り廊下から双眼鏡で家の中を覗く不審者がいるらしい。この家が覗かれているかはわからないが、用心に越した事はない。


姉ちゃんと美海の部屋はいつも厚手のカーテンをして対策するものの、そうすると日の光が入らないので常時真っ暗だ。明るい時間でも電気は欠かせない。


それを避けるために、2人は明るい時間限定で俺の部屋に居続ける事を提案する。不審者が俺の存在を認識すれば、部屋を覗かなくなるという寸法だ。


今後どうなるかは不明だが、とりあえずこの方針で進めてみよう。



 休日の朝食後、姉ちゃんはすぐバイトに向かった。帰りは昼過ぎだと聴いている。俺は昼過ぎからバイトだから、姉ちゃんと入れ替わる形になるな。


一緒のシフトにならなくて残念だが、他の人の都合もある。文句は言えない。


美海は昼食後に友達の家に遊びに行くらしい。なので午前中は俺の部屋で過ごす事になる。果たしてどうなるやら…。



 俺はベッドの上にいる美海のそばでテレビゲームをしている。一方、彼女はタブレットで動画を観ている。音は聞こえなくても、イヤホンをしていれば察しはつく。


……思いのほか、ゲームに集中できないのでプレイを止める。さっきから美海が気になって仕方ないからだ。良い意味で目が離せない。


膝上のミニスカートを穿いた状態で、寝っ転がったり足を組み直してるんだぞ? それに加え、香水をつけてるのか魅力的な匂いが漂ってくる…。


シスコンを自覚した今、美海と過ごす時間のほうが大事だ。


「美海、何観てるんだ?」

もし聞こえてなかったら、こっそりイヤホンを外してしまおう。


「うさぎの動画」

彼女は自分でイヤホンを外し、タブレットを俺に見せる。


…美海の言う通り、うさぎが人参を食べたり走り回ってる様子が映っている。俺は話を続けるため、彼女の隣に移動する。


「お兄ちゃん、ゲームはもう良いの?」


「ゲームより、美海と話すほうが楽しいから気にするな」


「嬉しい事言ってくれるね♡」


美海の笑顔を見ると心が洗われるぞ。ゲームなんてさっさと止めれば良かった。


「美海、うさぎが好きなのか?」


「うん。友達は犬か猫で盛り上がるんだけど、あたしはうさぎが一番好きだな~」


「そうなのか」

美海の知らない一面を知ったぞ。


「うさぎって、人気ないのかな~?」


「そんな事ないと思うぞ? 近い内に第三勢力になるんじゃないか?」


吠えたり鳴いたりしないから、犬・猫とは違う魅力がある。美海の機嫌を考えて言ったつもりだが、本当にあり得るかもしれない…。



 「この間、授業参観のプリント貰ったんだ~」


授業参観…。シングルマザーの母さんはいつも忙しいから、出れるのは運良く仕事が休みの時だけだ。来てくれた回数は、きょうだい全員合わせてもごくわずかになる。


俺達には縁がないはずなのに、美海は何故か嬉しそうだ。


「確か去年の今頃、お兄ちゃんの高校って『創立記念日』で休みになったよね?」


俺は高2だから、既に1回『創立記念日』を迎えている。宿題を出されないし、普通の休日と変わらなく過ごせたっけ。


「授業参観“〇日”なんだけど、創立記念日いつになるの?」


「〇日…。その日だな、創立記念日」


「って事はさぁ、お兄ちゃんあたしの授業参観に来れるよね?」


「来れる…のか? 高校生が中学生の授業参観して良いの?」

そんなの前代未聞じゃないか?


「良いんじゃないの? 学校サボってる訳じゃないし」


仮に美海の言う通りだとしても、周りは保護者しかいないんだぞ? 俺、どう考えても浮くよな?


「お兄ちゃん1人で心細かったら、お姉ちゃんにも来てもらおうよ~」


「姉ちゃんは大学があるから厳しいだろ? 訊いてみないとハッキリしないけど」


「それじゃ、お姉ちゃんがバイトから帰ってきたら訊いて欲しいな~」


美海の上目遣いに成す術はない。


「わかった。話してみるよ」


「わ~い♪」



 こうして、美海の授業参観に行く流れになった俺。来て欲しい気持ちはわかるし応えてあげたいが、そううまくいくんだろうか…。


姉ちゃんの返答で全てが決まりそうだ。頼むぞ姉ちゃん!

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