第4話 お風呂の順番の真実
美海に手を引かれながら階段を登り終えた時、廊下で着替えを持った姉ちゃんと鉢合わせた。
…姉ちゃんは階段を下りて風呂に向かわず、俺達の繋がれた手を見つめている。
「美海。その手は何?」
「お兄ちゃんをあたしの部屋に連れて行くためだよ。宿題を見てもらうの」
「ふ~ん…」
姉ちゃんの意味深な様子が気になる。俺の考え過ぎだと良いが…。
「話はもう良いよね? お姉ちゃん?」
「ええ…」
美海は再び俺の手を引きながら歩き始め、俺達は同時に彼女の部屋に入る。入り際に姉ちゃんのほうを確認したら、ずっとこっちを見ていた。
やっぱり気のせいじゃないかも…。
美海の部屋に入ったのに合わせ、彼女は手を離した。その後に部屋を少し観察したところ、キレイに整っている。日頃から整理整頓してるようだ。
ベッドの枕元に1体だけあるクマのぬいぐるみが、部屋のアクセントというか中2相応というか…。
「ねぇねぇ。さっきのあたしのパンツどうだった?」
俺と姉ちゃんが帰って来て早々、スカートをまくって見せてきたな。(2話参照)
「どうと言われても…。俺にはよくわからん」
「子供っぽく思わなかった? 正直に言って!」
何でそんな事を気にする? と言いたいが、美海の顔は真剣そのものだ。
「思わなかったぞ」
「良かった~。お姉ちゃんは何か言ってた?」
今度は姉ちゃんか。直接訊けば良いのに…。
「『美海もなかなかやるわね』だってよ」
「だろうね。友達と“男ウケが良い下着”について色々話してるから。あたしをいつまでも子供扱いしちゃダメだからね!」
「する訳ないだろ。美海は母さんの次に家事をこなしてるんだ。むしろ大人っぽいぞ」
俺は美海の頭をなでなでする。褒めるといえばこれだろ。
「えへへ♪」
なでなでは子供扱いしてるかも? となでてる途中に思ったが、本人が喜んでるから良いや。機嫌が良い時に本題に入るとしよう。
「美海。そろそろ宿題を見せてくれ」
「は~い」
彼女は学習机に宿題のプリント1枚を出す。見た限り、これから始めるようだ。
「わからないところがあったら訊くからね。終わったらチェックお願い」
「任せろ」
俺は美海が宿題をやる様子を、隣で観察し続ける…。
「…できた~! お兄ちゃんチェックよろしく!」
美海は俺に宿題のプリントを渡してきた。
解いてる間、美海は1回も俺に訊いてこなかったな。優秀でありがたいような、少し寂しいような、複雑な気分だ。
「………多分だが、全部合ってるぞ」
「多分なんだ?」
「高校の内容は基本的に中学の応用だが、そうじゃない分野もある。そういう分野は自信ないって事だ」
「そっか~。でもお兄ちゃんのチェックがあると心強いよ。ありがとね」
この程度で可愛らしい笑顔を見せてくれるとは。当然悪い気はしない。
「さて、これで用件は済んだな。俺は部屋に戻るわ」
「あれ? さっきお姉ちゃんと話したこと詳しく訊かないの?」
俺が1階で洗い物をしてる間、姉ちゃんと美海が2階で風呂の順番について話し合った件だ。
「俺抜きで話したって事は、俺に聴かれたくないんだろ? なら訊かないよ」
「別に秘密にしたい事じゃないし、口止めされてないよ? あたしはお兄ちゃんの反応を見たいから、今すぐ話したいけど♡」
美海がそう言うって事は、俺をからかう話っぽいぞ。 だったら心の余裕のために知っておきたい。事前に知るのと知らないのとでは大違いだ。
「じゃあ、話してくれるか? 美海」
「良いよ~。あたしが宿題やってる間、ずっと立ってて疲れたでしょ? ベッドのふち座って良いから」
「そうさせてもらう」
俺が座った後、美海も隣に座ってきた。果たしてどんな話が出てくるのか…?
「お姉ちゃんが最初にお風呂に入りたがった理由…。それは『2番目に入るお兄ちゃんに脱いだ下着を見せるため』だよ」
他の家族は知らないが、我が家は脱衣カゴを男女で分けていない。脱いだ服は積み木のように、次々と重なっていくのだ。
「もし嘘だと思うなら、後で確認してみて。お姉ちゃんの下着は絶対1番上に置いてあるから」
「別に美海を疑う訳じゃないが、姉ちゃんは何でそんな事をする?」
「あたしがお兄ちゃんにパンツを見せた“ジェラシー”だよ。それと…」
「それと…なんだ?」
「お兄ちゃんに、下着をクンカクンカしてもらうためだね♡」
「そんな事する訳ないだろ! あり得ない!」
「…そのあり得ない事を、お姉ちゃんとあたしはやってるとしたら?」
「は…?」
美海の衝撃告白に、俺の頭は真っ白になったのだった。
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