第4話 闘技場編②

闘技場出場者が利用する宿舎だけあって訓練所が併設されていて、宿泊者は自由に使うことができた。1日のほとんどをウロボロスと訓練をしながら過ごしているうちにウロボロスが水魔法を使用できることを知った。


意思疎通も言葉にしないで魔石を通じてできるだった。相性のいいマモモンほど具体的な指示を言葉なしに伝えられるらしい。


そしてとうとう試合当日の朝を迎えた。


ビギナーの部は1か月に1度開催されている。参加を受け付けている期間にギルド登録から1か月が過ぎていないマスターが対象。参加している者たちはマスターになってから1か月前後と考えていいだろう。


「本日の試合はビギナーたちの熱き戦いだ!戦術も戦略もなく、全身全霊をもって全力でただただぶつかり合う!若さゆえ、若い時にしか味わうことのできない戦い!ほとばしるパトスを受け止めろ!!」


よくわからない口上とともにフィールドに入場する。ゴルドーの闘技場は荒野をベースにしていて、岩や石なども転がっている。フィールドに転がっているものは自由に使用して戦ってよいため力の強いマモモンなんかは岩を持ち上げて岩石落としをするらしい。


「1回戦目は南ギルドからなんとギルド登録1週間にも満たないビギナーザビギナー!マサトシだ!対するのはいきなり優勝候補!東ギルドからコムギ博士の秘蔵っ子ボールドだー!賭けのオッズもなんと50対2と圧倒的人気!お前ら勝ち馬にはちゃんと乗ったか!?準備はいいか?目線があったらバトル開始だ!!」


俺の相手はいきなり優勝候補らしい、格上相手に胸を借りるつもりですぐにやられないように慎重に行くか。


「ふふふ、1回戦目が僕で残念でしたね。でも安心してください、僕は将来チャンピオンになる男です。そんな僕と戦えたことを自慢できますよ!」

「いけ!チュッピィ!」


ボールドがかぶっていた帽子をわざわざ半回転させて逆にかぶってからマモモンをくりだしてきた。あの動作に何の意味があるんだ?


見たところネズミ型のモンスターか、それならば相性は悪くないはずだ。


「お前に決めた!ウロボロス」


ウロボロスと相手のマモモンが対峙する。


「ふふふ、へび型モンスターか。君は今ヘビとネズミで相性がいいと思っているでしょう?僕のマモモンはそんなに臆病じゃないですよ!チュッピィ!雷をまとって体当たりだ!」


相手のマモモンがバチバチっと音を立てて素早い動きで接近してくる。


かなりのスピードだが、対応できないスピードではない。わざわざウロボロスに支持を出さなくても勝手に避けてくれるだろう。


思った通りウロボロスがシュルシュルと移動して体当たりを避けた。見ているだけでも体当たりは当たらないだろうが電気をまとっている間はこちらから触れることもできないな。


「ウロボロス、水分身だ!」


ウロボロスが水で生み出した自分の分身と位置を入れ替える。体当たりを仕掛けていた相手のマモモンはそのままの勢いで水をかぶってしまう。


「ふふふ、君のマモモンも魔法を使えるんですね。ですが水魔法とは残念ですね。僕のチュッピィは電気ネズミマモモンですよ!雷は水に対して2倍有利と言われているんです!相性が悪かったですね!」


「相性なんて知らんが、そんなもの当たらなければどうということはないだろう?」


「ふふふ、君のマモモンもなかなか早いですが雷のスピードについてこれますか?チュッピィ手加減はおしまいです。フルパワーで倒してしまいなさい!」


「チュッ・・・ピィィィイ!」


バチッバチッと音を立てて先ほどよりも大きく雷をまとった。スピードも先ほどより上がっていて攻撃力もかなり強そうだが、果たしてその出力がいつまでもつかな?命中率も低いんじゃないか?


「ウロボロス、よけれないスピードじゃない。水分身で落ち着いて避けるんだ」


スピードが上がっているが展開は先ほどと同じだった。ウロボロスが水分身で避けて相手のマモモンが水をかぶる。ウロボロスが避けるのが少し大変そうだが攻撃を仕掛けず回避に徹しているから一度も攻撃が当たることはない。


「逃げてばっかりいて、君のマモモンはよほど臆病なんですね」


「まぁ、おとなしく見てろよ」


そんな会話をしたすぐあと、相手の間も門の動きが急に鈍くなる。


「なっ・・・!チュッピィどうした!?いつもはこんな早くわざが出なくなることはないのに!」


「チュッ・・・ぴぃ・・・」


「ウロボロス、電気が取れた。まきつけ」


ウロボロスがシュルシュルと近寄りまきついて締め上げる。相手のマモモンも最後の抵抗と放電するが出力が弱くウロボロスは気にした様子がない。これで勝負あったな。


「どうする?このまま締め上げてもよいが、痛い目に合う前に降参したほうがいいんじゃないか?」


「くっ、降参だ!」



「彼、面白いね」


闘技場は今大歓声で沸いている。

それも当然だ。ビギナーランクとはいえ1回戦目から優勝候補が出場、それもあの有名なコムギ博士が育てたマモモンとなればデビュー戦を見たいと思う観客は多いだろう。将来はマスターランクの常連になるだろうといわれている逸材だ。デビュー戦を見ておけば最古参として周りに自慢できるからな。


しかし勝ったのは無名の新人。ビギナーランクとは思えない勝負を繰り広げて余裕を残した勝利。新たなチャンピオン誕生に期待を寄せる観客。


「彼と戦いたいな」


「・・・ビギナーランク優勝者とエキシビションマッチをセッティングしますか?優勝者は間違いなく彼でしょう」


彼はもっともっと強くなるだろう。うぬぼれる前に高い壁が存在することを示しておきたい。

それによってつぶれてしまうならそれまでの男だったということだ。


「いいね。闘技場関係者に話を通しておいて。見たところ1匹しかマモモンを連れていないようだから1対1のバトルでやろう」


どいつもこいつも不甲斐なさすぎでやる気が出なかったが、久しぶりに熱くなってきた。

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