Cry:G

CroosK

始まりの夢


夕暮れも終わりをつげ、月が上り始める時刻だろうか。

あたりはまだ明るいはずなのに、路地裏はこれでもかというくらい真っ黒に塗りつぶされていた。太陽の光が残っているからだろう。光があれば影というのはまっくらに影を落とすものだ。

そんな真っ黒な路地裏に、目を凝らせばかろうじて見える人影が一つ。

家の勝手口が多数伸びている路地裏の一角に人影は膝を抱えて座り込んでいた。

ぼろぼろの布に身を包み、寒くなってくるであろう時間であろうに色白の細い手足は外気にさらされていた。

腕と足、縮こまっている大きさからしておそらく齢10にも満たない子であろうことが推測できる。かろうじて着ている布や、ぼさぼさの黒い髪の毛から長い時間外で暮らしていることは容易に想像できた。


そんな真っ黒な路地裏の小道に対して、大通りからは人のにぎわう声が聞こえてくる。露店が立ち並ぶ、大きな通りだ。

夕飯時が近づいているのか、呼び込みの声が大きくなりつつある中ひときわ大きな声がとどろいた。


「ドロボーーー!!」


直後、物が乱雑に倒れる音が響き人々がざわめく声が響く。そんな怒号と、どよめきに路地裏の小さな影は肩を揺らした。

顔を上げた小さな影の黒髪の合間から、新緑の色がきらめいた。それは、小さな影の瞳の色だろう。きらきらと輝く新緑の目はとてもきれいなものだった。この世の濁りを知らない、とてもきれいな瞳。

そんな、小さな影の目線の先にはこれまた小さな影。大通りから入ってくる小さな影は両手にたくさん食べ物らしきものを抱えて懸命に走ってきていた。見た目は路地裏に佇んでいた小さな影とそっくりである。違いがあるとしたら、瞳の色だろう。路地裏の小さな影の瞳は新緑だったのに対し、走りこんできた小さな影の瞳は透き通った青であった。こちらもまた、穢れを知らない無垢な瞳であった。


「にいちゃん!」


すごい勢いで路地裏に駆け込んできた青い瞳の陰にそう呼びかける新緑の瞳の陰。

おそらく小さな影の二人は瞳の色こそ違えど、双子なのだろう。本当に、瞳の色以外はそっくりであった。


「にげるよ!!」


「うん!」


そう掛け合ったのち、双子たちは路地裏の黒に溶け込んでいったのだった。少し遅れて大通りから、大男が双子が消えた路地裏をのぞき込み困ったように首の後ろを掻いたのだった。


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Cry:G CroosK @croosk6677

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